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広がる「裁判費用」のクラファン、 公共性の高い訴訟サポートで社会を動かす力に
画像はイメージです(Caito / PIXTA)

広がる「裁判費用」のクラファン、 公共性の高い訴訟サポートで社会を動かす力に

10年ほど前から活発になったクラウドファンディング(CF)。近年では裁判費用を集めるプロジェクトも増え、公共性の高い訴訟をサポートしている。

単なる資金集めだけでなく、社会問題に関心を持ってもらうための入り口にもなっており、新たな民意形成の手法としても注目されている。

●みんなの力を少しずつ集めて

今年2~3月にかけて、旧優生保護法のもとでおこなわれた不妊手術の強制をめぐり、大阪高裁と東京高裁で国に賠償を命じる判決があいついだ。いずれも国が上告し、最高裁で争われることになる。

この訴訟で活用されているのが、社会問題の解決を目指す公共訴訟の支援に特化した「CALL4(コールフォー)」というサービスだ。

2019年の設立以来、扱った訴訟関連のプロジェクトは37件。中でも、コロナ禍で東京都から受けた時短命令をめぐり、飲食チェーン「グローバルダイニング」が起こした裁判は、裁判CF史上最高額となる約2500万円の支援を集めた。

CALL4の特徴は、寄付のみで運用しており、メンバーは全員、専門スキルや知識を活かした「プロボノ」であることだ。そのため、CFで集まったお金には手数料がかからない。

代表の谷口太規弁護士は次のように語る。

「お金以外にも、それぞれが差しだせるものはちょっとずつ違う。サイトを通じて、専門家から知識を提供してもらうとか、書面を共同編集するとか、みんなが出せる力をちょっとずつ集めて、大きなものを動かせればと思っています」

そのために力を入れているものの一つが、プロのライターと写真家による「ストーリー」と呼ばれる取材記事。裁判の背景や当事者の思いを丁寧に描き、読者の共感を誘っている。

「CALL4にはメディアの機能もある。仮に資金には結びつかなくても、問題意識が醸成されるなら社会的な意義があります。CFはサイトの大きな機能ではありますが、一番の目的は『司法をひらく』こと。訴訟資料も可能な限り掲載するようにしています」

司法を通じて、より良い社会をつくっていきたいという。

CALL4の「ストーリー」ページ(https://www.call4.jp/story/)。

●日本で裁判CFがはじまって、まだ4年

日本で最初に裁判費用のCFをおこなったのは亀石倫子弁護士とされる。医師免許を持たずにタトゥーを彫ったとして、彫り師が医師法違反に問われた事件だった。

亀石弁護士は一審の有罪判決後、「CAMPFIRE」というサービスを使って、2018年3月にCFを開始。300万円以上が集まり、専門家に意見書を書いてもらうなどして、無罪判決を勝ち取った。

「公益的な訴訟に日ごろから取り組んでいる弁護士にとっては、CFは選択肢の一つになっていると思います」(亀石弁護士)

亀石弁護士が語るように、今や裁判でCFが利用されることは珍しくなくなっている。

●専門スタッフが伴走、サポート

その亀石弁護士も弁護団に加わる大崎事件の再審請求に関するプロジェクトは、CFで約1200万円を集めた。利用したのは「READYFOR」というサービスだ。

READYFORの特徴は、キュレーターと呼ばれる専属の担当者がつくこと。CF業界全体で目標金額を超えるプロジェクトは平均30%ほどとされるが、READYFORでは約75%という高い目標達成率を誇る。

裁判CFに限れば、これまで13件をサポートし、いずれも目標金額を上回っている。元プロボクサー袴田巌さんの再審を求めるプロジェクトでは、約1800万円を集めた。

同社のリードキュレーター・徳永健人さんは、「裁判に関連するCFは、世間の共感を得られるものが多い。でも、目標金額までお金を集めることはハードルが高いというのが現実なんです」と語る。

ここで多くの人の共感と支援を集めるサポートをするのがキュレーターの役割だ。わかりやすいところでは、リターン(返礼品)やサイトに載せるメッセージの提案。READYFORにはおよそ100万人の支援者がいる。どのタイミングで、どういうメッセージを出せば、より支援が集まるのか。データなどをもとに細かく調整する。

このほかにも、個別メール、SNSでの発信、チラシの活用、記者会見での呼びかけなど、プロジェクト内容に応じて広報施策のアドバイスをし、さまざまな形で支援の輪を広げる手助けをしているという。

●純民事訴訟にも対応

現状、裁判CFの多くは、国や自治体などを相手にした公共・公益色の強い訴訟や刑事事件に限定されている。こうした中で特徴的なのが、通常の民事事件の扱いも多い「リーガルファンディング」だ。

運営団体の理事・望月宣武弁護士はこう説明する。

「民事でもCFを使いたいというニーズ自体はあるのですが、サービス提供側からすると、たとえば詐欺の疑いはないかなど、審査が難しいという問題があります。

我々は事件を担当する弁護士自らプロジェクトを立ち上げ、運営が審査するという二重のスクリーニングをすることで、クオリティを保証しています」

リーガルファンディングでは、破産者情報を公開した「破産者マップ」についての訴訟のほか、小説家の久美沙織さんによるキャラクター名をめぐっての「ドラクエ裁判」なども支援している。全体ではまだ支援件数が少なく、これから増やしていきたいという。

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