国産ウイスキーの原酒不足が続くなど、ウイスキーの人気は近年高まっている。コロナ禍の「宅飲み」で、身近なお酒となった「ハイボール」(ウイスキーのソーダ割り)を作ろうと手にする人も多そうだ。
そんな中、流通大手イオングループのプライベートブランドである「トップバリュ」のウイスキーに関するツイートが話題になっている。
現代によみがえったイミテーション・ウイスキーなのだ。
— 酒(クズなアラ)イさん (@sakearaisan) February 27, 2021
おそろしいことをしてくれたのだ。 pic.twitter.com/mYDT1daOj6
トップバリュのウイスキーのラベルには、原酒比率として、「モルト、グレーン10%以上」「スピリッツ90%未満」と表記されている。モルト(大麦麦芽)とグレーン(トウモロコシ、小麦などの穀類)はウイスキーの原料、スピリッツは一般に蒸溜酒全般を指す。
つまり、トップバリュのウイスキーが、モルトウイスキーやグレーンウイスキーが約1割で、残り約9割はウイスキー以外のアルコール類でできているということを示している。
トップバリュのウイスキー(720ml)は、イオングループ標準小売価格で「548円」とされている。お手ごろ価格であることは十分に考慮する必要があるが、ウイスキーの原料が1割ほどしか入っていないお酒でも「ウイスキー」を名乗ってよいのだろうか。
●酒税法上はまったく問題ない
ウイスキーについては、酒税法が次のように定義を定めている。
【酒税法3条15号】
イ 発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。)
ロ 発芽させた穀類及び水によって穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。)
ハ イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10以上のものに限る。)
上記「イ」または「ロ」に該当し、「ハ」の要件を満たしたものが、酒税法上の「ウイスキー」となる。
税制の企画・立案などを担当する財務省主税局によると、「『イ』はモルトウイスキー、『ロ』はグレーンウイスキーのことだと言って差し支えない」という。
ここで特に注目すべきは「ハ」だ。
この「ハ」は、「モルトウイスキーやグレーンウイスキーが10%以上入っていれば、残りの90%未満はスピリッツなどで構成されていても良い」としている。ひらたくいえば、いわゆる「ウイスキー的な要素」は10%で足り、残りはジン・ウオッカ・ラムなどのスピリッツで作っても良いことになる。
トップバリュのウイスキーは、ラベルの表記によれば、「モルト、グレーン10%以上」「スピリッツ90%未満」だ。酒税法上の要件を満たしており、「ウイスキー」を名乗ることに何ら問題はないということになる。
なお、成分量の表記はメーカーの任意によるものであり、「法令上、表示義務等があるわけではない」(財務省主税局)という。
●「ジャパニーズウイスキー」に基準ができた
お手ごろ価格のウイスキーは企業努力の賜物であり、コロナ禍で「宅飲み」する機会が増えている人にとってありがたい存在だ。一方で、原料にこだわった高価格・高品質な国産ウイスキーが近年、「ジャパニーズウイスキー」として海外でも評価されている。
そのため、酒税法上の「ウイスキー」というだけでなく、「ジャパニーズウイスキー」の品質やブランドを保証するようなルール作りの必要性が出てきた。
そこで、日本洋酒酒造組合は2021年2月16日、「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」の制定を発表した。同年4月1日から施行される。
比率を直接定めたものではないが、同基準では、「原材料は、麦芽、穀類、日本国内で採水された水に限る」「糖化、発酵、蒸留は、日本国内の蒸留所で行う」「700リットル以下の木製樽で3年以上日本国内で貯蔵する」「日本国内で容器詰めし、充填時のアルコール分は40度以上」「『ジャパニーズ』と『ウイスキー』の文字を統一的かつ一体的に表示する」など厳格なルールを定めている。
自主基準ではあるものの、同団体は法(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律)に基づいて組織された組合であり、多くのメーカーが組合員として加わっていることから、業界内のルールとして、十分に機能することが期待できそうだ。