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検事長の定年延長、「検察の未来に禍根残す」と批判の声 どこが問題なのか?
国会で答弁する森雅子法務大臣

検事長の定年延長、「検察の未来に禍根残す」と批判の声 どこが問題なのか?

東京高検の黒川弘務検事長(63)の定年延長をめぐり、波紋が広がっている。

人事院の松尾恵美子給与局長は、2月12日の衆議院予算委員会で、「国家公務員法の延長規定は検察官には適用されない」というこれまでの政府見解を「現在まで続けている」と述べていた。

ところが、その1週間後、同委員会で自身の答弁を撤回。1月22日に検察庁法を所管する法務省から相談を受けて、1月24日に「異論ない」と書面で返答したとして、「現在まで」を「1月22日に法務省から相談があるまで」に修正した。

野党は2月27日、過去の法解釈を無視して見解を変更したなどとして、森雅子法務大臣の不信任決議案を提出(その後、否決)。国会を揺るがす問題になっている。

検察庁法は、検事総長以外の検察官の定年を63歳としており(22条)、定年延長に関する定めはない。一方、国家公務員法は、退職により公務の運営に著しい支障が生じるなどの場合には、人事院の承認を得て、1年を超えない範囲内で定年延長ができると定めている(81条の3第2項)。

検察官が国家公務員であることは間違いないが、検察庁法に定められていない定年延長を国家公務員法で実現するという政府見解は、法的に問題ないのだろうか。荒木樹弁護士に聞いた。

●「検察官の定年制は、身分保障である一方、暴走を抑止する効果もある」

ーー定年延長をめぐり、国会での答弁が紛糾しています

「この問題については、従前の政府答弁等で様々な点が指摘されておりますが、全く別の視点から、個人としての意見を述べたいと思います。

補足しておきたいのは、まず、検察官には、一般の公務員と異なり、裁判官に準じた手厚い身分保障が認められています。

検察官が、その意思に反して失職ないし減給されるのは、定年(検察庁法22条)、検察官適格審査会の議決(同法23条)、検察庁の廃止による剰員(同法24条)、および懲戒処分(同法25条)に限られています」

ーーなぜ検察官には手厚い身分保障が認められているのでしょうか

「身分を保障することで政治的独立性を確保し、強大な検察権を適切に行使できるようにするためとされています。

裁判官は、憲法の規定に基づき、三権分立の一翼として身分保障が定められていますが、司法作用に直接携わる検察官についても、裁判官に準じて身分保障が認められているのです」

ーー身分保障と定年延長はどのように関連しているのでしょうか

「先ほど述べたとおり、検察官の定年制は、検察官の身分保障の一つではありますが、その目的は適切な検察権を行使するためです。

検察官の身分保障は、他方で、検察の独善・暴走の危険も伴います。

定年までは身分保障がある反面、法律の定める定年に達した場合には退官を強制するという制度は、検察官の身分保障と、検察権力の抑制のバランスを図ったものであると考えられます。司法権の独立が保証されている裁判官の定年制も、同じように考えることができると思います。

検察官の定年は、検事総長が65歳、その他の検察官が63歳と定められています。

権力を抑制する観点からは、一般国家公務員と同様に定年を延長することは、検察庁法の趣旨に明確に反するもので、これまでの政府答弁を脇に置くとしても、相当に問題だと思います」

●「国家公務員法の定年延長規定は、検察官には適用されないと解釈すべき」

ーー政府は、検察官の定年延長を国家公務員法で可能という見解のようです

「国家公務員法の定年延長規定は、司法権に準ずる立場にある検察官には適用されないと解釈するのが当然です。

今回の定年延長は、検事総長人事との関連性が報道等で指摘されています。

検事総長は、すべての検察庁の職員に対して指揮命令をする権限があり(検察庁法7条)、その権限は非常に大きいものがあります。

たとえば、警察庁長官には、都道府県警察への指揮監督権しかなく、個別の事件捜査の指揮をする権限はないのです(警察法16条)。

こういった権限の非常に大きい検事総長の恣意的な任命は、極めて問題が大きく、検察の未来に禍根を残すことになりかねません」

プロフィール

荒木 樹
荒木 樹(あらき たつる)弁護士 荒木法律事務所
釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取り扱っている。

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