東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容されて11年目となるパキスタン・カシミール地方出身の男性に対し、12月10日、代理人を通じて「12月17日に強制送還する」との通達があった。
収容当時は80キロ以上あった体重は、現在40キロ台前半まで落ちている。定期的に受けている血液検査では重度の貧血が確認されており、支援者との面会にも車椅子で現れる状態だ。
期限まで残された時間はわずか。強制送還に耐えられない健康状態にある男性が今、「人道」に反して、非情にも送還されようとしている。(取材・文/塚田恭子)
●カシミール独立運動への関与と来日
男性は1980年代、カシミール独立運動に関わり、当局から繰り返し身体拘束や拷問を受けたとうったえている。
迫害から逃れて、1987年に来日したが、2003年に在留資格(配偶者ビザ)を失った。日本で生活基盤を築いてきたものの、在留資格の変更は認められなかった。
2015年6月、2度目の収容となった際には、治療のためオーダーメイドで作った膝のコルセットを取り上げられたという。
また、収容施設で手首を骨折した際にも、病院で適切な治療を受けられず、後遺症が残った。
こうした差別的な取り扱いに抗議し、男性は食事を拒否するようになった。その結果、体重は半分近くまで減少し、現在も重度の貧血が続いている。支援者との面会には、常に車椅子で現れる。
この3年ほど、わたしも支援者とともに定期的に男性と面会してきた。検査結果を見せながら、男性は次のように語る。
「月に一度、診察を受ける入管の医師は『軽い力が加わっただけでも、骨折しかねない身体状況の人を強制送還しても大丈夫だとは書けません』と、私の前で入管職員に説明しています」
「今年3月、別の入管施設の医師が10人近い職員と一緒に部屋に来ました。私を診て『(強制送還は)問題ない』と言いました。牛久入管の医師が『強制送還できる』という診断書を書かないから、代わりに別の医師を連れてきたんです」
●骨密度は若年層比47%、MRI結果は非開示のまま
11月上旬、男性は外部の大学病院でCTとMRIの検査を受けた。CT検査の結果によると、大腿骨の骨密度は約0.4g/㎠で、若年層との比較で47%、同年代との比較でも55%という数値が示されていた。
一方、同時に受けたMRI検査の結果は、1カ月以上経った今も、男性の手元に渡っていない。
「これまで病院で検査を受ければ、その結果はすべてもらいました。今回は『もし見たければ、情報開示請求すればよい』と職員に言われました。でも、どうして入管が私の検査結果を管理して、本人が自由に見ることができないのでしょうか」
検査結果を渡さないのは、入管にとって都合が悪い、つまり強制送還できない健康状態を示す数値が出ているからではないか──。10年以上にわたり、入管の対応を見てきた男性はそう疑う。
「もし情報開示請求をしても、都合の悪いところは黒塗りにされるでしょう」
●通知ルールを無視した送還強行
入管問題に取り組む弁護士らの尽力により、これまで代理人がついている人については、退去強制令書が出されても、通知希望申出書を提出していれば、入管が原則として執行の2カ月前に送還時期を通知する運用がされてきた。
しかし現在、入管はこうしたルールを事実上無視し、送還に耐えられない健康状態の男性を強制送還しようとしている。
自身が難民であることをうったえながら、男性は入管の不当な処遇に対し、徒手空拳で闘ってきた。かつてカシミール独立の闘士だった彼は、今、気力だけで生きている。
●「送還停止効例外」の急増が示すもの
出入国在留管理庁の公表資料によると、今年の護送管付き国費送還者における「送還停止効例外」の適用件数は、1~5月(5カ月間)で84人中6人だったのに対し、6~8月(3カ月間)は119人中36人に上っている。
法務省が今年5月、「国民の安全・安心を守るための不法滞在者ゼロプラン」を公表して以降、国は「送還停止効例外」を適用した強制送還を前のめりで進めている。
こうした姿勢は、日本には「送還すべき人が多くいる」という印象を与える。しかし実際には、退去強制令書が出た人の約9割は自費で出国している。
送還に応じない人たちの多くは「帰らない」のではなく、「帰れない」事情を抱えている。
制度のはざまで在留資格を失いながら、20〜30年以上にわたり日本社会に定着してきた人たちが、すでに生活基盤のない母国へ、リスクを伴う帰国を強いられているのだ。
難民認定率が2.2%(2024年)にとどまる日本において、仮放免者や収容者は、かつてないほど厳しい状況に置かれている。