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「まるで拷問」コロナで深刻化する入管の長期収容…医療受けられず「骨折」放置、帰国もできない
東京入管に抗議する様子(提供:柏崎正憲)

「まるで拷問」コロナで深刻化する入管の長期収容…医療受けられず「骨折」放置、帰国もできない

骨折が治っていないのにもかかわらず、適切な治療を受けられないまま、東京出入国在留管理局(東京・港区)に収容されつづけている外国人男性がいます。

筆者は、司法による救済をもとめましたが、東京地裁は、彼の収容が解かれないことの是非について、判断を避けたうえで、請求を棄却しました。

「人身の自由」は、国籍に関係なく、あらゆる人間の基本的権利です。しかし、日本の入管と司法は、外国人の「人身の自由」をないがしろにしています。(柏崎正憲)

●長期収容にくわえて医療放置も深刻

入管の長期収容による移民・難民の人権侵害には、近年、批判が強まっています。

入管は、在留資格のない外国人を送還するまでの間、一時的に身体拘束しているにすぎないとしていますが、その「一時的」な拘束が、1年、2年、3年・・・と続きます。

この異常な長期収容にくわえて、医療放置も深刻です。

入管は、適切な医療を収容者に提供しているとしていますが、実際はほとんどの場合で、鎮痛剤や湿布のような気休めの薬を出すくらい。それ以上の治療や施薬を避けています。

要するに、医療費をケチろうとしているのです。

診察を任される医師も、それを知っていて、踏み込んだ診断を避けがちです。入管職員が患者をさしおいて医師と話し込んで、診断そのものを変えてしまうケースすらあります。

長期収容と医療放置による症状悪化の結果、急死する人や、ガンなど深刻な病気の診断がついてから外に放り出される人もいます。

これから紹介するのは、治っていない骨折を放置されたまま、東京入管に収容されつづける外国人男性のケースです。

画像タイトル 東京入管(提供:柏崎正憲)

●骨折が治っていない男性が収容された

この男性は10年以上前、来日しました。すぐに在留資格は切れましたが、帰国できない理由があります。一つは出身国では迫害される恐れがあること、もう一つは日本で暮らすうちに日本人女性と結婚をしたことです。

手指に骨折を負ったのは、2018年末です。自然には治らず、癒合のための手術を受けました。

2019年9月に骨折の手術が終わり、リハビリのための通院をはじめた矢先の同年11月、男性は東京入管に収容されました。

治療継続のため、仮放免(収容の停止)を申請しましたが、不許可に。一方で、入管当局から「一時的に帰国すれば、正規の在留資格での再入国を認める」という話を持ちかけられました。

骨折のことを考えると、収容が長引くことは不安です。彼は帰国の検討をはじめました。

●入管の非常勤医師のあきれた言い分

男性のパスポートはすでに期限切れで、再発行しなければなりませんでした。

ところが、帰国準備のための仮放免の申請すら、入管に却下されました。やむを得ず、収容されたまま、入管経由で出身国領事館にパスポート発行を申請しました。

しかし、まもなくコロナの影響で、領事業務が止まってしまいました。そのため、現在も男性のパスポートは再発行されていません。骨折部の痛みは強まりつつありました。

骨折部に埋め込まれたピンを外す予定がもともとあったので、男性は2020年5月、収容を解かれないまま、近くの病院で除去手術を受けました。ところがピン除去後、骨折部の苦痛は悪化。動かすとぐらついて、骨が癒合していない感覚があります。

しかし、その後は、診療を何度も要求しているのに、鎮痛剤しか出されず、検査もしてもらえません。入管の非常勤医師は「骨がくっついていない以上はしかたがない」とすら診療録で述べています。

帰国後に治療しろと言われても、パスポートが発行されなければ帰国もできません。自費で治療するために仮放免を申請しても、却下されます。彼は、治らない骨折の苦痛を日々耐えるしかないのです。

これでは「拷問」ではないでしょうか。

●不当な拘束かどうか判断してくれない司法

憲法34条が定める「不当な抑留・拘禁からの自由」を保障するために、人身保護法があります。

人身保護は、離婚したカップル間の親権争いにおいて請求されることが多いのですが、本来、政府機関による不当な拘束を停止するための制度です。それゆえに第三者でも請求できます。

そこで私は2020年8月末、男性を入管収容から可能な限り早く解放するため、弁護士を立てず、東京地裁に人身保護を請求しました。この中で、彼を仮放免しないことは、仮放免に関する法令と判例に違反していると主張しました。

ところが、東京地裁は、2カ月かけて準備調査をしたものの、同年11月に請求を棄却しました。しかも、主張の是非を判断することなく、別の手段(行政訴訟)で、彼の収容停止をもとめることができるからという理由でした。

彼が適切な医療を提供されていないことについては、医者が「骨がくっついていない以上はしかたがない」と言っているから問題ないとして、明らかな医療放置を容認する始末でした。

画像タイトル 東京地裁の決定文(提供:柏崎正憲)

たしかに人身保護は、ほかの法的手段がない場合のみ請求可能とされています。

しかし、この法律の目的は、不当に奪われている自由を「迅速」「容易」に回復させることにあります。通常の行政訴訟では、裁判そのものにも、費用を工面することにも、時間がかかるので、「迅速」な救済の手段にはなりません。

そもそも仮放免をもとめる行政訴訟はハードルが高いのです。外国人問題にくわしい本多貞雅弁護士によると、彼が知る勝訴の事例は1件だけです(『Mネット』2020年4月号)。

それなのに「行政訴訟すればいい」として、人身保護命令するかの判断を控えるというのは、法律の目的に反してはいないでしょうか。これでは東京地裁は、行政機関による不当な拘束に目をつぶり、政府をかばっていると非難されても仕方がないように思います。

●外国人の「人身の自由」を守らない行政と司法

治らない骨折を抱えたまま、男性は1年以上、東京入管に収容されています。帰国して治療するという手段すら当面とれないにもかかわらず、東京入管は仮放免を認めません。彼を収容しつづけることは、何の意味もない、不条理な「拷問」です。

そして、東京地裁の決定は、この不当な拘束を「迅速」に解消する手段を封じ込めたといえます。

男性が奪われているのは、国籍に関係なく、すべての人間が尊重されるべき「人身の自由」です。自由を奪いつづける入管、そして、その自由を守ることが人身保護法の主旨なのに、判断を避ける司法。

はたして、こんなことで、日本を法治国家と言えるのでしょうか。

【筆者プロフィール】 柏崎正憲(かしわざき・まさのり)
SYI(収容者友人一同)メンバー。2010年から入管収容者の支援活動に携わる。教員。
SYI(収容者友人有志一同)サイト:https://pinkydra.exblog.jp/
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