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裁判官が「刑期」を間違えて「違法判決」 こんな凡ミスはよくあることなのか?
裁判官にもミスはある?

裁判官が「刑期」を間違えて「違法判決」 こんな凡ミスはよくあることなのか?

「被告人を懲役1年に処する。ただし未決勾留日数中20日を算入する」。

これは、スーパーで566円相当のミカンなどを万引きしたとして、窃盗罪で起訴された被告人に対して、神戸地裁尼崎支部の裁判官が7月5日に言い渡した判決だ。

「未決勾留日数」とは、被告人が逮捕されて拘置所に勾留されていた期間のこと。裁判官は自らの裁量で、この期間(の一部)を「刑に服した」ものとみなして、刑期から差し引くことができる。これは「未決勾留日数」の「算入」という制度で、刑法21条で決まっている。

しかし実は、この被告人は逮捕も勾留もされておらず、取り調べや起訴は在宅で行われていた。つまり、本来は差し引くことができる日数はゼロだったのだ。

この判決ミスの原因は裁判官の勘違いだという。ところが、その場では誰も誤りに気づかず見過ごされてしまったため、兵庫地検尼崎支部が7月18日、「判決は刑法21条に反する」として大阪高裁に控訴することになってしまった——と報じられている。

こんな裁判官の凡ミスはよくあることなのだろうか。また、このようなミスを防ぐ仕組みはないのだろうか。落合洋司弁護士に聞いた。

●裁判官が間違った判決を出してしまうことは、ときどきある

「裁判官も人間ですから誤りはありえます。裁判官が違法判決を出すケースは多くはありませんが、ときどき起きることがあります」。落合弁護士はこう語る。

自身も検事時代、「あわや」というケースに遭遇したことがあるという。「裁判官が、複数の被告人に対し、連続して判決を言い渡そうとした際、被告人を取り違えたのです」。その際は落合弁護士が即座に指摘、裁判官が慌てて言い直したため、違法判決は避けられたという。

裁判には、こうしたミスを防ぐ仕組みはないのだろうか。

「裁判所サイドとしては、まず書記官のチェックがあります」。落合弁護士はこう述べる。書記官というと法廷で記録を取る人——というイメージが強いかもしれないが、その裏では裁判官を補佐し、裁判を円滑に進めるため、幅広い役割を果たしているのだという。

●判決の言い渡しの途中であれば、間違いを訂正できる

また、刑事事件では、担当検察官もミスの低減に一役買っているようだ。

「最近起きた別の過誤判決では、裁判官が、本来付けられないはずの執行猶予を付けてしまった例がありました。こういったミスは、たとえば検察官が『論告の際に、実刑以外はあり得ないことを明確に指摘しておく』ことで、かなり避けられるものです。また、検察官は判決前に『算入可能な未決勾留日数』をメモ書きし、書記官に渡しておくこともあります」

なるほど、裁判は決して裁判官ひとりで行われているわけではないということだ。

「裁判官が判決言い渡しの途中で誤りに気づいて言い直せば、言い直した内容が有効になります。検察官だけでなく弁護人も、誤りに気付けば、言い渡し途中でも遠慮なく指摘して、裁判官に再考してもらうべきです」

確かに、それで違法判決を防げるなら、指摘をためらう理由はないだろう。今回については、ミスをした裁判官に最大の責任があるのは明白だが、チェック役の書記官や検察官も見逃していたということだ。我々にとっても、人間は過ちを犯す生き物、ということを再認識するのによいケースと言えるかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

落合 洋司
落合 洋司(おちあい ようじ)弁護士 高輪共同法律事務所
1989年、検事に任官、東京地検公安部等に勤務し2000年退官・弁護士登録。IT企業勤務を経て現在に至る。

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