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人工知能が著作権侵害を「自動告訴」 AIによる「法の完全執行社会」が到来する?
人工知能をめぐる法律問題について話す福井健策弁護士。講演では、人工知能の進化で「消える」職業にも触れた。

人工知能が著作権侵害を「自動告訴」 AIによる「法の完全執行社会」が到来する?

人工知能(AI)が音楽や文章、動画などを自動的に作れるようになった時代に、法律はどう対応すべきかーー。著作権に詳しい福井健策弁護士が、そんなテーマの講演を行った。東京都内で7月15日に開催された音楽著作権に関するシンポジウム(日本楽譜出版協会主催)。芸術文化やエンターテインメントの法律問題に精通する福井弁護士が、世界最先端の議論を紹介した。(ライター・長嶺超輝)

●人工知能が作り出した作品の「著作権」はどうなる?

人工知能は、今まで人類が作ってきたたくさんの作品を分析し、「ディープ・ラーニング(深層学習)」という方法を使って、一定のパターンを見つけ出せる。そのパターンに沿って、人間の作品を応用した「派生作品」を瞬時に作り出すことができる。福井弁護士によると、たとえば、猫の写真とゴッホの絵を人工知能に読み込ませると、「ゴッホの絵の中に溶け込んだように見える猫」という派生作品を、一瞬で作ってみせるという。

また、ツイッターの「BOT(ボット)」と呼ばれる人工知能は、人間から質問などのツイートを受け取ると、まるでその質問に返事をしたかのような文章を出力して送り返す。たまに、質問と回答が少しズレていたりもするのだが、そのズレを楽しむファンも多い。

福井弁護士は「天才的に人々を熱狂させる傑作は、もしかすると人工知能には永久に作れないかもしれない。だけど、そこそこ楽しいものなら瞬時に大量生産できる」と、人工知能による「創作」の特徴を解説する。

一方で、人が音楽、小説、イラストなどを創作したとき、その作品を他人が勝手にコピーしないよう保護するのが、著作権という権利である。では、人工知能が作り出した作品に、著作権は発生するのだろうか。

この点について、福井弁護士は「現時点で、人工知能による創作物は、著作物でない。しかも、それを著作物として扱うことが業界から求められてもいない」と、現状を説明する。

なぜなら、現代のウェブの世界を席巻するグーグル、アップル、フェイスブックなどのプラットフォーム業者は、著作権で儲けているわけではないからだという。

たとえば、フェイスブックやグーグルにとって、音楽や文章、動画などの著作物は、サイトにアクセスを集めて多くの人々に広告を見せるための「客寄せ」でしかない。アップルにとっては、音楽や小説、動画などは、iPhoneを使わせるためのネタにすぎないという。

●「法の完全執行社会」は素晴らしいのか?

他方で、人工知能の業界は、人工知能が作った派生作品よりも、ディープ・ラーニングを実現するために必須の要素である「ビッグデータ」「データベース」「アルゴリズム」「学習モデル」などを著作権で保護してほしいのだと、福井弁護士は指摘する。

「創作の保護が二の次になるのは、けしからん話かもしれないが、この流れは止まらないだろう」と、福井弁護士は著作権法の将来を語る。著作権の役割は、創作の保護から、大企業が巨額を投資した「人工知能ビジネスの保護」へと変化するよう迫られているようだ。

また、人工知能は、ネット上にあるコピー著作物(海賊版)などを自動的にパトロールして見つけ出せるようになった。権利者にとっては、とても便利な機能である。

福井弁護士は、そのうち著作権侵害に対する「警告」や「告訴」なども自動でできるようになり、いわば人工知能による「法の完全執行社会」が生まれるかもしれないと予測する。

一方で、「法律が完全に執行されず、ある程度のゆとりがあるからこそ、人間の社会は成り立ってきた。自転車の路上駐輪は良くないが、それを完全に取り締まることは不可能だし、それが不可能なのはいけないことだろうか」と疑問を投げかけていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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