今年4月から共同親権制度が施行されたのを受け、鹿児島県錦江町が、共同親権下にある未成年者の転入・転居・転出の際に「父母双方の同意書」の提出を求める独自の運用ルールをホームページで案内していたことがわかった。8月31日13時30分時点でも掲載されている。
法務省の解説資料では、未成年の子の住民票にかかわる転入・転出などの届出について、離婚後に父母双方を親権者と定めた場合でも「父母双方の同意は求めていない」と明記されている。町の案内は、国が示す取扱いとは異なるものだった。
町は8月31日、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、同意書を住民異動届の受理に必要な書類と位置付ける「法的根拠があったものではありません」と回答。国が示す住民票関係の取扱いとも「整合していない」と認め、ホームページの掲載内容や窓口での案内を見直す方針を明らかにした。
●目的は「子の利益保護やトラブルを避けるため」
問題となったのは、引っ越しに伴う住民票の手続きだ。町のホームページでは、次のように案内されている。
「※令和8年4月1日から施行された共同親権制度に伴い、錦江町では独自の運用として、共同親権下にある未成年者(18歳未満)の転入・転居・転出の届出を行う場合は、父母双方の同意書の提出をお願いしています」
町が公開している同意書には、父母それぞれの住所や氏名、生年月日、電話番号などを記載する欄があり、双方の署名を求めている。
これに対し、SNSでは「DVを受けている親子の場合はどうすればいいのか」などの疑問が上がっていた。
なぜ、町はこうした独自運用を始めたのか。弁護士ドットコムニュースの取材に、次のように回答した。
「共同親権制度の施行に伴い、離婚後の父母双方が親権者である場合に、未成年者の住所の異動についても父母双方の意思を確認する必要があるのではないかとの問題意識から、本町において独自に同意書の提出をお願いする取扱いを掲載したものです。
その背景には、未成年者の転居等をめぐって父母間に意見の相違がある場合に、行政窓口においてトラブルとなることを避けることや、子の利益を保護する観点から、双方の意思を確認しておくことが望ましいのではないかとの認識がありました」
●国の取扱いを「十分に確認していなかった」
一方、町は、この取扱いを決める際、同意書が任意であり、住民異動届の受理要件ではないことについて説明が不足していたとした。
さらに、DVや虐待から避難する親子への対応について十分な協議をしておらず、国が示す取扱いについても十分に確認していなかったという。
その上で、こう説明した。
「『町独自の運用』として父母双方の同意書を求めることについて、法的な根拠や住民異動届の受理との関係を十分に協議・説明しないまま掲載したものであり、結果として住民の皆様に誤解を与える表現となりました」
●同意書に法的根拠はあったのか?
住民基本台帳法では、転入届、転居届、転出届について、必要な届出事項などが定められている。
同法には、共同親権者である父母双方の同意書を住民異動届の受理要件とする規定はない。
また、法務省の「Q&A形式の解説資料(行政手続・支援編)」でも、離婚後に父母双方を親権者とした場合の未成年者の転入・転出などについて「父母双方の同意は求めない」との考え方が示されている。
弁護士ドットコムニュースが同意書についての法的根拠を尋ねたところ、町は次のように回答した。
「本町が掲載した同意書について、これを住民異動届の受理に必要な書類として位置付ける法的根拠があったものではありません。任意で求める旨の説明が不足していました」
国の考え方との整合性についても、町は「国の考え方と本町がホームページに任意でなく必須である旨に掲載していた内容との間には、整合しない部分がありました」と認めた。
●実際に同意書を求めた事例なし
町は今後について、「住民基本台帳法及び国が示す取扱いに基づき、住民異動届について父母双方の同意書の提出を受理の条件とすることはありません」としている。
ホームページで「提出をお願いしています」と案内していたことについても、見直す方針だ。
「任意の協力をお願いする趣旨であったとしても、住民の方からは『提出しなければ届出を受理してもらえない』と受け取られる可能性があり、説明が不十分でした。この点については、本町として適切ではなかったと認識し、ホームページ上で周知を行います」
また、DVや虐待から避難する親子への対応について、町は「DVや虐待等のケースを判断し同意書の提出を求めることは想定していません」と回答。必要に応じて、住所を秘匿するための「DV等支援措置」などで対応するとしている。
なお、町によると、これまで実際に父母双方の同意書の提出を求めて住民異動届を取り扱った事例はなかったという。 (弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)