2020年東京オリンピックの公式エンブレムをデザインした佐野研二郎氏の「盗作疑惑」が、海の向こうで波紋を広げている。佐野氏が監修したキャンペーン賞品や、群馬県太田市の公共施設のロゴのデザインをめぐって、アメリカのデザイナーが法的手段を検討しているというのだ。
サントリーのキャンペーン賞品については、すでに計30点のうち8点の取り下げとなり、発送中止となった。佐野氏も、事務所スタッフによる「トレース(敷き写し)」だったと認めている。そのうち「BEACH」と書かれたものは、米ジョージア州のベン・ザラコー氏がデザインしたものと酷似しているとされる。
また、佐野氏が制作した群馬県太田市の公共施設のロゴについては、米コロラド州のジョシュ・ディバイン氏が2011年に発表したロゴに「類似している」という認識を示した。両氏はそれぞれ、法的手段を検討しているということだ。
東京オリンピックの公式エンブレムをめぐっては、すでにベルギーのデザイナーが国際オリンピック委員会(IOC)に対して、使用差し止めを求めて地元の裁判所に提訴した。ザラコー氏らは今後、どのような法的手段をとりうるのだろうか。早瀬久雄弁護士に聞いた。
●使用差し止めと損害賠償請求が考えられる
「法的手段をとるうえで両氏が検討している問題は、おそらく著作権でしょう。
まず、ザラコー氏の場合、矢印内に『BEACH』と書かれた元のデザインが、著作権法上の保護対象なのかという問題がないとはいえません。
ただ、そこはひとまず置いて話を進めると、著作権侵害の場合にとりうる法的手段としては、一般に、使用差し止めと損害賠償請求です」
だが、問題のトートバックは、すでに取り下げと発送中止になっている。
「トートバッグが今後配布されるおそれはないため、差し止めの対象となる行為は、すでになくなっています。考えられるとすれば、損害賠償請求でしょう。
この場合の損害額ですが、日本の著作権法では、報酬を受けていれば、その一部を著作権者の損害額として推定したり、使用料相当額を損害額として推定したりする規定があります。
一方で、ディバイン氏の場合、似ているのは線と黒丸を使って表現するというアイデアの部分であり、このアイデア自体は著作権で保護されません。著作権侵害の主張そのものが、かなり難しいのではないでしょうか」
2人はアメリカ在住だが、そのあたりはどう考慮されるのだろうか。
「アメリカで創作されたものでも、著作権は、アメリカはもちろん、条約によって日本でも認められます。
ただ、佐野氏が日本で活動しているため、法的措置を考える場合、日米どちらで提訴するにしても、国際裁判管轄の問題が生じます。
五輪エンブレムのように、欧州在住のデザイナーが、同じ欧州に本拠をおくIOCを提訴するのとはまた違った問題がありますね」
早瀬弁護士はこのように述べていた。