iPadなどのタブレット端末や電子書籍ストアの登場などで「電子書籍元年」と呼ばれた2010年から5年がたった。今年の元日からは改正著作権法が施行されたが、その柱は、電子書籍に対応した「出版権」の整備だ。
文化庁のホームページでは改正法について、「出版物が違法に複製され、インターネット上にアップロードされた海賊版被害が増加している」として、紙媒体だけでなく、電子書籍時代に対応した法整備を進めてきたことを説明している。
今回整備された「出版権」とはどのようなものなのか。消費者に与える影響も含めて、著作権問題にくわしい桑野雄一郎弁護士に聞いた。
●著作権者も制限する「強力な権利」
「出版権とは、著作物を出版することができる権利で、著作権者が設定できます。この設定を受けると、出版社は出版行為を独占できることになります」
桑野弁護士はこのように述べる。「独占できる」とは、どういうことだろう。
「『独占』というからには、第三者はもちろんのこと、著作権者ですら出版社に無断で出版できなくなります。つまり、出版権は、著作権者も制限する強力な権利だといえます。
これまでの著作権法では、出版権は紙の書籍だけが対象でした。出版業界などから海賊版対策が求められたことを受けて、今回の改正で、電子書籍にも対応できることになりました。
出版社は『紙』に加えて、『電子書籍』についても、出版権という強力な権利を手に入れることができるようになったわけです」
●「動画」や「音声」は対象外に
今回の法改正は、われわれ個人の生活に影響があるのだろうか。
「直接的な影響はあまりないでしょう。
ただ、出版権を設定する対象は、『文書』や『図画』です。『動画』や『音声』などは対象外になっています。ですから、電子書籍に含まれるコンテンツによって、権利者が異なる可能性もあります。また、権利者を確実に知る方法もありません。
これから電子書籍の権利関係はより複雑になり、われわれにとって、ますますわかりにくいものになるかもしれません」
違法ダウンロードの問題について、変化はないのだろうか。
「私的違法ダウンロードの対象が『録音・録画』である点は、改正されていません。
つまり、違法配信されている動画や音楽データをダウンロードすることは違法ですが、違法な電子書籍をダウンロードしても、私的利用目的である限り、違法ではありません。
この点は、これまでと同じです。もちろん、望ましいことではないのですが・・・」
桑野弁護士はこのように指摘していた。