2019年02月17日 09時13分

虐待親を弁護、見えてきた課題 「解決できない」問題を抱えた親たち

虐待親を弁護、見えてきた課題 「解決できない」問題を抱えた親たち
神尾尊礼弁護士

虐待によって、幼い子どもの命が奪われる事件が後を絶たない。2018年3月、東京都目黒区のアパートで船戸結愛(ゆあ)さん(5)が死亡した。父親からの虐待があったとされる。今年1月には千葉県野田市で小学4年の栗原心愛(みあ)さん(10)が自宅で死亡し、傷害の疑いで両親が逮捕された。

「家庭」という閉ざされた空間で起こる児童虐待。親に暴力をふるわれたり、放置されたりしても、だれにも助けを求められずに苦しんでいる子どもたちがいる。

なぜ、児童虐待は起きるのか。小さな命を守るためにできることはないのか。虐待した親の弁護を手がけてきた神尾尊礼弁護士に話を聞いた。(編集部・吉田緑)

●背景に社会からの孤立

神尾弁護士は、虐待が起こる家庭の特徴として「核家族」をあげる。

「虐待は、社会とのつながりが希薄で、周りにだれも頼る人がいない家庭で起きることが多いと感じています。また、虐待をしてしまう人のなかには、精神疾患を患っていたり、その疑いがあったりする人も少なくありません。

『だれも見てくれない』『がんばっているのに無視されている』と感じてしまい、閉鎖的な状況に追い込まれ、子どもをはけ口にしてしまう人もいます」

ほかにも、神尾弁護士が関わってきたケースでは、経済的な苦労がある家庭や、連れ子がいる家庭も多かったという。また、親自身も虐待を受けていたり、機能不全家族で育っていたりするケースも珍しくないそうだ。

●「父親と母親の反応には明確なちがい」

犯罪白書(平成30年版)によると、2017年に虐待で検挙されたのは、実の父がもっとも多く、ついで実の母とされる。しかし、実の親が再婚した相手(養父母)や内縁関係にある相手が虐待をおこなっているケースも目立つ。

「養父母や内縁関係にある親の場合、しつけの名のもとに暴力をふるうなど、虐待が激しくなりやすい傾向にあります。

一方で、実の親子関係においては暴力ではなく、家に帰ってこないなどネグレクトをしてしまうことが多いと感じています。『自分のものだから(なにをしてもよい)』と暴力をふるう人もいます」

愛されたいと願う子どもたちに虐待をしてしまう親。彼らは虐待をしてしまった事実をどのように受け止めているのだろうか。神尾弁護士は「父親と母親の反応には明確なちがいがあり、温度差を感じる」と話す。

「これまでみてきたかぎりでは、父親の受け止め方は千差万別です。落ち込む人もいれば、まるで他人事のような人もいますし、しつけだったと言う人もいます。虐待について反省していないように見受けられるケースがあるのです。

一方で、ほとんどの母親は反省や後悔の念に苛まれています。憔悴していたり、落ち込んでいたりすることがほとんどです」

●「夫がつかまると生きていけない」

逮捕された心愛(みあ)さんの母親は、DVの「被害者」でもあったと報道されている。神尾弁護士によると、父親が子どもに暴力をふるうケースでは、母親もDVを受けていることが少なくないという。

心愛さんの母親は、なぜ子どもとともに暴力から逃げなかったのか、という声がネット上では多くあがった。これも、よくある誤解だと神尾弁護士は指摘する。

「夫から暴力を振るわれていても『今の環境を変えたくない』『夫がつかまると生きていけない』と話す人は多いです。経済的な依存もあるといえますが、DVの被害にあっている人は共依存の問題を抱えていることが少なくありません。

共依存に陥ってしまうと、そこから抜け出すことが難しくなってしまいます。夫がいる家庭にしか居場所がないと思いこんでしまい、暴力から抜け出そうという発想が出てこなくなってしまうのです。そのため、警察を呼んだとしても夫を許してしまいます。

そして、夫に暴力を振るわれるストレスから、子どもをストレスのはけ口にしたり、子どもが暴力をふるわれていても見て見ぬふりをしたりしてしまうことがあります。

DVの被害に悩んでいるならば相談してほしいと思いますが、相談するまでの一歩を踏み出すことが難しいのです」

●「守るべきは子どもたち」

1人でも多くの子どもたちを守るためにできることはないかーー。児童虐待の事件に関わるにつれて、神尾弁護士はこのように強く考えるようになっていったという。

「まだ構想の段階ですが、弁護士を集めて窓口をつくりたいと考えています。子どもの代理人になったり、親権を止めたりするなど、弁護士ができることは多くあるはずです。

また、福祉・心理・医療などの方面の専門家や警察、役所とも連携し、児童相談所にはない支援を実現したいと思っています。使い勝手のよい支援のシステムが必要です」

子どもたちを守るため、社会全体でできることもあると神尾弁護士は訴える。

「虐待が起きている家庭は、自分たちでは解決できない問題を抱えています。だからこそ、まわりが救いあげないといけません。もし虐待に気づいたら、児童相談所や警察に通報するなどアクションを起こして、適切な支援につないであげてほしい」

また、DVを受けている母親などが声を上げることは難しいとしつつ、「DV防止法などを使って逃げ道をつくることもできますし、経済的なこともいっしょに考えることができます。一歩を踏み出し、弁護士に相談してほしい」とした。

(弁護士ドットコムニュース)

神尾 尊礼弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
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