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万引きや無銭飲食を繰り返す「累犯障害者」 その背景と対策は?
司法と福祉が連携して、「累犯障害者」を支援する取り組みが広がり始めている

万引きや無銭飲食を繰り返す「累犯障害者」 その背景と対策は?

万引きや無銭飲食などの犯罪を繰り返してしまう「累犯障害者」を、司法と福祉が連携して支援する取り組みが広がり始めたようだ。今年1月には東京地検、10月には仙台地検が、こうした人たちの再犯防止や社会復帰を支援するため、アドバイザー役となる「社会福祉士」を非常勤で雇ったと報道されている。

厚労省が2007年に行った研究(サンプル調査)によると、刑務所入所者約2万7000人中、知的障害者またはその疑いがあるとされた人が410人いた。その約7割にあたる285人が再犯者で、5回以上の累犯者も162人に及んでいたという。

なぜ、こうした累犯障害者は、犯罪を繰り返してしまうのだろうか。そして、必要とされている支援とは、いったいどのようなものなのだろうか。この問題に取り組む浦崎寛泰弁護士に聞いた。

●刑罰だけでは「再犯」を防止できない

「障害それ自体が犯罪を引き起こすわけではありません。しかし、障害ゆえの『生きづらさ』を抱えた人が、社会の中で孤立したり、経済的に困窮したりした結果、万引きや無銭飲食をしてしまうケースが少なくありません。

また、罪を犯したことで、仕事や住む場所を失い、人間関係も途切れがちです。刑務所を出ても帰る場所がなく、再び犯罪を繰り返してしまいます。

このような人たちを刑務所に収容して『反省』させるだけでは、再犯を防止することはできません。障害福祉サービスなどにつなぐことで、犯罪を繰り返さなくても生活ができる環境を整える必要があります」

浦崎弁護士は、「累犯障害者」が陥ってしまっている状況を、このように解説する。その現状に対して、どんな手が打たれているのだろうか。

「障害や高齢のために帰る場所がない元受刑者を福祉サービスにつなげる『地域生活定着支援センター』が、全都道府県に設置されています。これは厚生労働省所管事業の一環です。

さらに長崎県では、刑務所に入る前の捜査段階や刑事裁判の段階から、早期に福祉サービスにつなげる『司法福祉支援センター』による取り組みが試行されています。

東京地検や仙台地検が非常勤の社会福祉士を採用したのも、被疑者を早期に福祉サービスにつなげるための取り組みといえます」

障害者だけでなく、社会的に孤立した高齢者についても、福祉へつなぐという観点から、同じような枠組みの対策が行われているようだ。

●社会に「受け皿」を増やす必要がある

しかし、こういった取り組みは、まだ「芽吹こうとしている段階」と言えそうだ。浦崎弁護士は次のように述べ、社会全体の意識を変えていく必要があると強調していた。

「このような取り組みを全国に広めるためには、罪に問われた障害者・高齢者を受け入れる社会資源(受け皿)の拡充が必要です。

しかし、まだまだ『リスク』をおそれて、受け入れをためらう福祉事業所も存在します。社会の偏見も根深いものがあります。

罪に問われた障害者・高齢者を排除しない社会を創るため、司法・福祉・医療・地域が緊密にネットワークを構築していくことが求められています」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

浦崎 寛泰
浦崎 寛泰(うらざき ひろやす)弁護士 弁護士法人ソーシャルワーカーズ
1981年生。2005年弁護士登録。長崎県の離島(法テラス壱岐)で活動した経験や、法テラス千葉で障害のある方の刑事弁護を数多く担当した経験から、弁護士とソーシャルワーカー(福祉の専門職)が、分野や地域を越えて、普遍的に協働することができる仕組みが必要だと考え、社会福祉士の資格を取得。特に、障害のある方の成年後見業務、性風俗で働くセックスワーカーの法的支援などに力を入れている。2018年4月弁護士法人ソーシャルワーカーズ設立(代表弁護士)。

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