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受刑者が「熱射病」で死亡、過去には「凍死」も…刑務所の空調設備、法的な定めはなく
画像はイメージです(ykokamoto / PIXTA)

受刑者が「熱射病」で死亡、過去には「凍死」も…刑務所の空調設備、法的な定めはなく

この夏、日本列島が猛暑に襲われている。熱中症対策の整備が社会的な課題になっている中、7月25日には、名古屋刑務所(愛知県みよし市)で40代の男性受刑者が熱射病で死亡した。

毎日新聞の報道(7月25日)などによれば、亡くなった男性受刑者は1人部屋に収容されており、窓から風通しのある状態になっていた他、廊下に置かれた扇風機で送風されていたそうだ。受刑者の居住部分や作業スペースに冷房は設置されておらず、熱中症の中でも最も重い症状である「熱射病」が死因となったという。

熱中症への注意喚起がなされる中での今回の事故。刑務所の空調は法律など、何かしらの根拠に基づき運用されているのだろうか。刑務所設備は、従来のままで問題ないのだろうか。荒木樹弁護士に聞いた。

●「法律上、具体的な設置の義務」は定められていない

「刑事施設の収容者は、刑事施設の収容によって行動の自由を制限され、生活の全般にわたり規制を受けています。重大な人権の制約ですが、刑法に定められた刑罰の執行、または刑事訴訟法の規定よる身柄拘束であるので、国家として正当な法の執行です(形式的には人権侵害ですが、法律によって適法行為とされているのです)。

しかし、あくまで行動の自由の制限を受けているだけであって、生命や健康までを国に委ねている訳ではありません。

収容された者は、医療機関の治療を受ける自由も、健康維持のための活動の自由もありません。そこで、収容された者の生命及び健康を維持することは、刑事施設を運営する国の義務であると考えられています」

法律にも定められているのでしょうか。

「刑事収容施設法は、刑事施設は、被収容者の健康を保持するため、適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする(同法56条)旨が定められています。

現に、刑事収容施設の職員が、収容者の生命及び身体(健康)の保持に努める注意義務に違反したとして、未決勾留中の被告人が拘置所の独房内で凍死した事故につき、拘置所職員に過失があるとされて、国家賠償が認容された判例(神戸地裁平成23年9月8日)も存在します。

しかし、空調設備等の整備について、法律上、具体的な設置の義務が定められているわけではありません」

●「個々の職員による、監視・監督に委ねられる」

気象庁は今年の暑さについて「災害レベル」と警鐘を鳴らしています。過去の凍死例から言っても今後、空調の整備を進めていくべきではないでしょうか。

「刑務所内の空調設備の不備が原因となった死亡事故があるものの、現状では、体調の悪い収容者のために、施設の一部に空調設備を設けるに留まっています。施設の大部分には空調施設はなく、もっぱら、現場の職員の活動による健康管理に任せられているのが実情のようです。

すべての矯正施設内に、空調設備を設置するのが理想ですが、現実には、予算をどのように確保するのかの問題が大きく、限界があります。ご承知のとおり、例えば小中学校の空調設備ですら、満足に設置されていおりません。学校と刑務所、どちらを優先すべきとは言えませんが、国家の予算には限りがある以上、これをどのように配分するのか、何を優先するのかについては、政府の合理的な裁量に任されてます。

空調設備の整備・拡大は必要ではあると思いますが、当面は、個々の職員による、収容者の健康状態の監視・監督に委ねられることになるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

荒木 樹
荒木 樹(あらき たつる)弁護士 荒木法律事務所
釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取り扱っている。

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