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「GPS捜査」最高裁で審理、弁護士「プライバシー侵害を黙認することはありえない」
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「GPS捜査」最高裁で審理、弁護士「プライバシー侵害を黙認することはありえない」

裁判所の令状をとらずに、捜査対象者の車に「GPS」(全地球測位システム)の端末を取り付けて捜査したことの違法性が争われた裁判で、最高裁は10月上旬、15人の裁判官全員による大法廷で審理することを決めた。この問題をめぐっては、下級裁判所で結論が分かれており、最高裁が初めて判断を下すことになりそうだ。

報道によると、大法廷で審理されるのは、関西などで起きた窃盗事件の裁判。関係者の車やオートバイに令状なしでGPS端末を取り付けたことについて、1審の大阪地裁は昨年7月、違法と判断した。しかし、2審の大阪高裁は今年3月、「重大な違法があったといえない」として、異なる結論を示した。

GPS捜査をめぐっては、このほかにも裁判がおこなわれている。名古屋高裁は今年6月、ある窃盗事件の判決で、「捜査は違法」と判断。一方、広島高裁は別の事件で「違法ではない」という結論を下していた。最高裁の判断は、今後の捜査に大きな影響もおよぼすが、そのポイントについて、刑事事件にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。

●GPS捜査は「強制捜査」にあたるか?

「捜査対象者の自動車に『GPS』を取り付けるという捜査手法については、それが『任意捜査』か『強制捜査』か、が問題となります。

警察の捜査は、関係者の協力を得ておこなう『任意捜査』が原則です。

強制手段を用いておこなう『強制捜査』は、原則として、裁判官が発した『令状』により、事前に犯罪の嫌疑の有無や、強制捜査の必要性などについての審査を受けなければなりません(憲法35条)」

任意捜査と強制捜査はどのように区別されているのだろうか。

「かつて、『任意捜査』と『強制捜査』の区別の基準は、『有形力』(物理的な強制力)の有無が重視されていました。

しかし、現在では、『強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する』(最高裁昭和51年3月16日第三小法廷決定)とされています。

今回、最高裁大法廷が、GPS捜査について、この最高裁第三小法廷決定に照らして、どのような判断をするかが注目されます」

●「甚大なプライバシー侵害が生じていることに疑問の余地はない」

その判断のポイントは、どういうものか。

「GPSが車に取り付けられれば、誰もが本人の知らないところで、個人の位置情報のすべてが警察に把握され監視されることになるという事情について、重大な『プライバシー侵害』と認めるか否かでしょう。

これまでの下級審裁判所の審理は、現代のテクノロジーが長時間、長期間にわたって個人の位置情報を把握・記録・蓄積することを可能とすることを明らかにしました。警察のGPS捜査によって、甚大なプライバシー侵害が生じていることに疑問の余地はありません。

司法が、警察のGPS捜査を『任意捜査』として、規制をおよぼさなければ、警察による管理社会が出現するでしょう。私は、人権の砦である最高裁大法廷が、警察のGPS捜査を『任意捜査』として黙認することなどありえないと思います。

なお、アメリカでも、連邦最高裁は、令状なしのGPS設置について憲法違反と判断しています」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

萩原 猛
萩原 猛(はぎわら たけし)弁護士 ロード法律事務所
埼玉県・東京都を中心に、刑事弁護を中心に弁護活動を行う。いっぽうで、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件をはじめ、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件や、欠陥住宅訴訟など様々な損害賠償請求事件も扱う。

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