性感染症の「梅毒」が増加しているとして、厚生労働省がリーフレットを発行するなど、警鐘を鳴らしている。
国立感染研究所の調べによると、梅毒感染者は年間約1万1000人が報告された1967年以降、減少傾向が続いていたが、近年は2010年621例、2011年827例、2012年875例、2013年1228例、2014年1671例と増加傾向にある。2015年も10月下旬の時点で、2037例が報告されている。2010年と比べると3倍以上に急増している。
梅毒は性的な接触などによってうつる感染症で、治療せずに放置すると、脳や心臓に重大な合併症を引き起こすことがある。厚労省はリーフレットで「コンドームの適切な使用によりリスクを減らすことができます」と注意を促している。
もし、自分が梅毒に感染していることを知っていながら、誰かと性行為をして、その結果として相手を梅毒に感染させた場合、罪に問われることがあるのだろうか。刑事事件に詳しい本多貞雅弁護士に聞いた。
●性病を移すことは「傷害」にあたる可能性
「自分が、梅毒に感染していることを知りつつ、性行為をして、その結果として相手にも感染させた場合には、傷害罪が成立します。傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です」
本多弁護士はこのように述べる。傷害というと、相手を殴るなどしてケガを負わせるようなケースを思い浮かべるが、性病を移す場合も含まれるのだろうか。
「傷害罪における『傷害』とは、健康状態を不良に変更し、その生活機能の障害を引き起こすことをいいます。骨折や裂傷などを生じさせる外形的な侵害行為が典型ですが、睡眠薬等を飲ませて急性薬物中毒の症状を生じさせる行為や、脅迫によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を生じさせる場合も、傷害となり得ます。
そして、梅毒に感染させることも、重大な生理機能の障害を引き起こしますから、傷害罪における『傷害』にあたります。古い判例 ですが、被害者の同意を得た上で性器を接触させ、それにより性病(淋病)に罹患させた行為について、傷害罪の成立を認めたものがあります」
自分が梅毒に感染していると知らなかった場合は、どうだろうか。
「相手に傷害を与える故意がなかったとして、傷害罪は成立しません。しかし、自分が感染していたことを知らなかったことについて過失が認められるような場合は、過失傷害罪(法定刑は30万円以下の罰金又は科料)となる余地があるでしょう」
本多弁護士はこのように述べていた。