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「今回の分裂は、山口組の歴史の終わりかもしれない」 ジャーナリスト溝口敦さん
山口組分裂問題で記者会見したジャーナリストの溝口敦さん(左)と久保利英明弁護士(右)

「今回の分裂は、山口組の歴史の終わりかもしれない」 ジャーナリスト溝口敦さん

日本最大の指定暴力団「山口組」の分裂問題について、長年暴力団を追い続けているジャーナリスト・溝口敦さんと暴力団対策法に詳しい久保利英明弁護士が10月20日、東京・有楽町の外国特派員協会で、海外メディアの記者たちに解説した。山口組分裂の原因などを説明しながら、「暴力団の影響力は今後、弱まっていく」という見方を示した。

●ジャーナリスト溝口敦さん「創立100周年の分裂」

山口組は1915年、山口春吉によって神戸市兵庫区に設立されました。そして、ちょうど創立100周年の今年、山口組は2つに分裂しました。

分裂されたほうは「6代目山口組」で、司忍(本名・篠田建市)が組長です。分裂したほうは「神戸山口組」で、こちらは井上邦雄という人が組長です。

本部所在地はどちらも神戸にあります。

山口組はご存知の通り、兄弟関係、血縁関係のような原則で、組織をまとめています。

山口組は、かつて120の直系組織がありましたが、現在の6代目山口組は、59直系組長からなる組織です。一方、神戸山口組は13~14の直系組長からなっています。

両方を合わせた山口組全体の組員数は1万300人程度と言われています。そのうち、6代目山口組がだいたい7000人、神戸山口組が3000人程度だと見られています。

6代目山口組の司忍組長は、名古屋に本拠を持つ弘道会の出身です。

神戸山口組の井上組長は、神戸に本拠を持つ山健組の組長でもあります。山健組は山口組内で最大多数の組員(2000人)を持っていると言われています。

●分裂の背景にある「カネ」の問題

なぜ分裂したかですが、まずお金の問題がありました。

山口組は、直系組長たちから毎月会費を集めています。

直系組長たちは、1人当たり、月115万円の会費を集めます。その他に積立金が月10万円あります。

その他に、飲料水とか、日用雑貨品を半強制的に購入させられ、これにだいたい月50万円前後の金を払っているとされています。

また毎年、お中元、お歳暮の時期になると、直系組長たちは、司忍組長にプレゼントをしなければなりません。お中元の時期には、合わせて5000万円を作り、プレゼントします。お歳暮は同様に1億円を作り、プレゼントする。さらに毎年1月25日の司忍組長の誕生日にも、1億円をプレゼントすることになっています。

分裂前の話ですが、山口組本部には、毎月7000万円ぐらいの会費が集まり、そのうち3000万円が司忍組長にわたっていたそうです。

直系組長たちは、1人あたり年間3000万円を本部におさめ、司組長の年収はおおよそ10億程度と推定されています。そして、司忍組長の毎年10億円程度の収入には、課税がされていないとみられています。

こうした収入は、従来非課税と考えられていたからです。ところが、今年6月、北九州市を牛耳る工藤会の野村悟総裁が、所得税法違反の容疑で逮捕されました。福岡県警は「組員からの上納金には課税すべきだ」と考えたのです。

警察庁からも、各都道府県警に対して、暴力団首脳を脱税で上げろという指示が出されています。神戸山口組においても、こうした容疑で司忍組長を逮捕させることができるのではないかという観測が流れています。

山口組の執行部というのは、若頭と若頭補佐、本部長からなっています。だいたい10人弱の組織です。この執行部が、組の運営や会計を司っています。

こういう執行部を経験した人間が、5人ほど、神戸山口組に移動しています。司忍組長にいくら渡ったかというデータを、彼らは持っていると言われています。

●「人事の独占」が招いた不満

山口組が分裂したもう一つの大きな理由は、弘道会による人事の独占です。

現在の司忍組長は、弘道会の出身です。山口組ナンバー2である若頭の高山清司という人は、現在府中刑務所に服役中ですが、弘道会の出身です。さらに、若頭補佐の竹内照明という人は、弘道会の現在の組長です。

組長には、若頭から上がることが多く、組長、若頭、若頭補佐を弘道会が独占しているため、6代目~8代目までの山口組組長を、弘道会が独占するのではないかという雰囲気があります。

こうしたお金と人事の問題が、分裂の大きな原因になっています。

これに対して、批判派である神戸山口組では、新しい自分たちの会費システムを作りました。

役付の直系組長は月額30万円、そのほかの直系組長は月20万円、平の組長は月10万円。これまでに比べれば10分の1程度で済ませられる金額です。

そのほか神戸山口組では、中元・歳暮を禁止し、組長の誕生祝いはしないということで、参加する直系組長たちにお金がかからないようなシステムを作り上げました。

司忍組長は、イタリア製ブランドの服で身を固め、洒落者として知られています。

これに対して、井上邦雄組長は、着ている服がユニクロであり、風邪用のマスクを洗濯してアイロンをかけて使っているという話があります。両者対照的であるわけです。

●「最終的には神戸山口組が勝つのではないか」

神戸山口組では、現在の分裂について、江戸時代の百姓一揆、あるいは逃散のようなものだと、彼ら自身が述べています。

これまで、暴力団の場合、自ら組を割って出たほうが負けると決まっていました。

たとえば、山口組から一和会が分裂したときも、道仁会から九州誠道会が分裂したときも、割って出たほうが敗れています。

ところが今回は、神戸山口組と付き合おうという団体が出てきています。大阪の酒梅組は、6代目山口組の後見を断って、神戸山口組と付き合うと言っています。

関東を中心とする住吉会の中で、もっとも武闘派だとされている加藤連合の加藤組長も、神戸山口組にシンパシーを感じているようです。

山陽道の侠道会もそのようですし、ゆくゆくは沖縄の旭琉会も、神戸山口組に接近するのではないかと言われています。

現在のところ、勢力比は7対3で、6代目山口組が優勢ですが、勢いや人気でいうと神戸山口組が優勢なのではないか。ゆくゆくは、5対5になり、最終的には割って出た神戸山口組が勝つのではないかと、私自身は観測しています。

ただし、久保利先生がおっしゃっているように、神戸山口組と6代目山口組のどちらが勝利しようと、山口組全体は勢力を弱めるだろうと思っています。

今回の分裂は、おそらく山口組最後の分裂であり、山口組の歴史の終わりを意味することになるかもしれないと、私は考えています。

●久保利英明弁護士「45年間、ヤクザ相手の仕事をしてきた」

私が弁護士になって45年、ずっとヤクザを相手にする仕事に絡んできました。最初の10年間は倒産事件で、相手方はヤクザでした。倒産事件が起きると、ヤクザが、つぶれた会社をむしりに来ていました。

しかし、10年ほど経つと、日本の景気が良くなって、1980年代には倒産が少なくなりました。その後、彼らがビジネスにしたのが「総会屋」です。「株主総会を荒らさないため」として、会社から巨額のお金を取るのが総会屋です。

そこで、1982年に商法が変わり、総会屋に利益供与、お金を出してはいけないということになりました。このとき多くの会社が、弁護士の力を借りて総会屋をしめだそうとしましたが、必ずしも成功しませんでした。

なぜなら、日本を代表する銀行、証券会社、大メーカーが総会屋に利益供与を続けたからです。

しかし、1997年、旧第一勧銀の利益供与事件が起き、東京地検特捜部の介入などもあった結果、多くの企業で、「総会屋への利益供与がとんでもない犯罪だ」という認識が広まりました。

●「今回の分裂で暴力団の力は弱まる」

そして21世紀に入ると、総会屋は影をひそめ、暴力団は非常に幅広い活動をするようになり、ありとあらゆるお金の動くところに介入するようになりました。

暴力団は、1992年に施行された暴対法の適用を逃れるために、地下に潜っていきました。表だって暴力団的活動をすることを、差し控えるようになったのです。

こういう過程の中で、巧みに経済取引を行う山口組が、勢力を拡大していきました。かつて10万人いた暴力団が全体的に縮小する中で、山口組は逆に全体の過半数を占めるような、大きな組織になっていきました。

ところが、2009年からは、暴対法だけではなく、地方自治体が備える条例によって、暴力団排除の動きが強まりました。そういう中で、山口組の中に自己矛盾が発生してきました。

名古屋を拠点としたグループと、もともとの本拠だった神戸を拠点とする山口組に分裂をし始めたのです。いま一番の大きな問題は、抗争が始まるのかどうかです。

今後の推移は予断を許しませんが、今回の分裂によって、暴力団の力は弱まると、私は考えています。

日本の経済発展とともに大きくなった暴力団ですが、もはや日本社会は、暴力団のような存在を許さなくなり、暴力団に金を払うような経済システムはなくなりました。

これが弁護士である私の目から見た、この45年間の、暴力団の推移です。

(弁護士ドットコムニュース)

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