3人死亡、負傷者も100人以上という惨事となった米・ボストンの爆発テロ事件。全貌が少しずつ明らかになるにつれ、事件で犯人が使用したのは手作りの「圧力鍋爆弾」であることがわかってきた。
「圧力鍋爆弾」の作り方はイスラム系テロ組織のアルカイダがネット上で公開しており、材料は圧力鍋や釘など、その気になれば入手できるものばかりだ。各テレビ局は、作り方が紹介されているHPの画面キャプチャーなどを紹介、実際に作業工程の一部をカメラの前でやってみせた上で、「手軽」「安価」「インターネットでも作り方が見られる」などと解説する番組も登場した。
たしかに、事件の経緯を報じる上で、犯人の手口を紹介することも大事だろう。だが、それを見て真似をする人が出てくれば話は別だ。こうした報道は見方によっては犯罪幇助(ほうじょ)になりかねないのではないか。大和幸四郎弁護士に聞いた。
●「圧力鍋爆弾の作り方の紹介」は「幇助犯」にあたるのか
事件の報道では、「犯罪幇助」あるいは「幇助犯」という言葉をときどき目にするが、そもそも「幇助犯」とはなんだろう?
「幇助犯は、『従犯』とも呼ばれ、『正犯を幇助した者』を言います(刑法62条1項)。つまり正犯者の犯罪行為を幇助する意思で、これを幇助する行為を行うことを要します」
大和弁護士はこのように説明する。つまり、犯罪を実行する中心人物(正犯)を助けて、その実行を容易にする役割を果たす者のことだ。
「幇助犯が成立するためには、(1)正犯を幇助する行為と意思が必要であり、さらに、(2)正犯の実行行為があったことが必要です」
では、テレビで圧力鍋爆弾の作り方を紹介することは「幇助犯」にあたるのだろうか。
まず(1)の要件について、大和弁護士は「テレビ局に、正犯(テロ行為をする人)を幇助する意思はないと思います」と述べる。「幇助犯の意思としては、正犯者が実行行為を行うこと、つまり特定の犯罪を起こすことを認識することが必要だとされていますが、本件では、そこまでの意思はないと考えます」。
また、(2)の要件についても、「テレビ番組を見た誰かが、実際にテロ行為を起こしているわけではないので、正犯の実行行為はありません」という。
●テレビが圧力鍋爆弾の作り方を紹介しても、「幇助犯」が成立する可能性は低い
つまり、幇助犯の成立要件である(1)正犯を幇助する意思(2)正犯の実行行為のいずれについても、今回の場合はみたされないだろうということだ。
「したがって、テレビ局が圧力鍋爆弾の作り方を紹介したとしても、幇助犯は成立しないと思います」というのが、大和弁護士の結論だ。
ただし、「私見ですが」と断りながら、大和弁護士は次のように付け加えた。
「爆弾の作り方を詳細に放映することは、やめてほしいと思っています。それを見てまねをする人が出てきたら、日本でも新たな悲劇が起こる可能性がありますから」
大和弁護士によると、「万が一、放送を参考にした爆弾テロが実際に行われて、被害者が出てしまった場合、テレビ局は、被害者や遺族から民事賠償責任を追及されるおそれもあります」ということだ。
テロで使われるような爆弾の作り方を詳細にテレビで紹介することは、犯罪とはいえなくても、民事上の責任問題につながる可能性があるといえそうだ。公共の電波を使って多数の視聴者に向けて放送するテレビの影響力は大きいので、犯罪に関する報道には注意が必要といえるだろう。