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刑事事件の被疑者を「留置場」から「拘置所」へ移せ――裁判所の決定はなぜ出たのか?
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刑事事件の被疑者を「留置場」から「拘置所」へ移せ――裁判所の決定はなぜ出たのか?

詐欺事件で逮捕され、勾留されていた男性の収容場所を、警察署の中にある「留置場」から、法務省が管轄する「拘置所」に移すよう、大阪地裁堺支部が決定を出していたと、4月2日に報じられた。

報道によると、決定は昨年12月10日付。勾留中の男性が警官から暴言を吐かれたとして、留置所から拘置所へ移すように、男性の弁護人が求めたという。裁判所は、留置場で録音・録画(可視化)がされていないことを理由に、移送を認めたのだそうだ。

このような裁判所の決定は異例だというが、留置場から拘置所に移されると、いったいどんな違いがあるのだろうか。刑事手続にくわしい小笠原基也弁護士に聞いた。

●違法・不当な取調べが行われやすい

「『留置場』は警察署内にあるため、身内である取調官による暴行・脅迫・利益誘導といった、明白に違法な取り調べが起きやすい環境と言えます。

深夜・早朝の取り調べや、長時間におよぶ不当な取り調べも行われやすく、こうした環境のもとでは、被疑者が精神的に疲弊して、虚偽自白をさせられる可能性が高くなります」

留置場での、違法・不当な取り調べを防ぐ仕組みはないのだろうか。

「現在の法律では、捜査・取調担当官と留置担当官は、分けなければならないとされていますが、これだけでは決して十分ではありません。

たとえば、刑事事件の被疑者には、われわれ弁護士と会って話すための『接見交通権』が認められています。これは公正な裁判のため、被疑者に与えられた重要な権利です。

ところが実際には、われわれ弁護士が接見に訪れても、取調官が自白調書を作成するまで留置場に戻さないといった形で、接見妨害が行われています。また、被疑者が違法・不当な取り調べを拒否しようとしても許されない、といったことも実際には起きています」

法律上、被疑者の勾留は、原則として拘置所でするものとされているが、例外的に警察の留置場を代用することが認められている。そのことから、留置場は「代用監獄」とも呼ばれている。

「過去の冤罪事件の多くは、このような代用監獄内での自白強要の結果、虚偽の自白がなされたことが原因で生じています。代用監獄は自白強要、ひいては冤罪の温床だとして、国連人権委員会から何度も是正勧告を受けていますが、日本政府は改めようとしていません」

●原則と例外がひっくり返っている

逮捕した被疑者を警察署で拘束することは、普通におこなわれているようだが・・・

「逮捕・勾留されたら警察署の留置場に収容されるのは当然だと、多くの方は思われているかもしれません。たしかに、実際の運用はそうなっています。

ところが、刑事訴訟法の原則からいえば、被疑者が留置場に収容されるのは、逮捕後最大72時間までとなっているんですね」

その後は、どうなるのだろうか?

「逮捕による身柄拘束の後、さらに被疑者の身柄を拘束し続ける必要がある場合、次は『勾留』という手続きになります。

そして刑事訴訟法では、勾留中の収容場所は、刑事施設(拘置所)となっています。拘置所は、被疑者や被告人などを収容するための施設で、法務省の施設です」

つまり「勾留」段階では、法務省の管理する「拘置所」に行くのが原則なわけだ。それではなぜ、男性は警察署の留置場にいたのだろうか。

「それは、勾留中の被疑者を留置場に収容することが、刑事収容施設法で許されているからです。

被疑者が身近にいたほうが、取り調べる警察にとっては都合が良いですから、結局のところ、原則と例外がひっくり返って、勾留中の被疑者が留置場に収容されることが『原則』であるかのような運用がなされているのです」

●代用監獄の問題点を認めた内容

今回の移送決定を、小笠原弁護士はどう見るだろうか。

「大阪地裁堺支部の決定は、代用監獄の問題点を指摘したうえで、自白強要の可能性が大きいことを正面から認めた決定として評価できると思います。

また、警察段階での取り調べの全事件・全過程の録画についても問題を提起したと評価できます。

国は、代用監獄を原則とする運用を改めるか、警察段階での取り調べの全事件・全過程の録画をするか(あるいは双方とも行うか)を早期に決めなければならないと考えます」

小笠原弁護士は、このように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小笠原 基也
小笠原 基也(おがさわら もとや)弁護士 もりおか法律事務所
岩手弁護士会・刑事弁護委員会 委員、日本弁護士連合会・刑事法制委員会 委員

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