北海道旭川市で女子高生(当時17歳)を橋から転落させて殺害したなどとして、殺人などの罪に問われた女性(20歳、事件当時19歳)に対する裁判員裁判で、旭川地裁(小笠原義泰裁判長)は3月7日、懲役23年の判決を言い渡しました。
この判決が報じられると、SNSなどでは、刑期について「短くね?」「たったの23年って…」などと「軽すぎる」とする声があふれています。この「懲役23年」という刑期は「軽い」のでしょうか。実はそうとはいえないのです。
●被害者が1人の「殺人罪」単独では、懲役23年にはならない
まず、殺人罪(刑法199条)の法定刑は、「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」とされています。
そして「無期」ではなく有期懲役を言い渡す場合には、最大で20年までとされています(刑法12条1項)。被害者1人の殺人罪だけで起訴された場合には、「懲役23年」を言い渡すことができません。
今回の事件では、被告人の女性は、「殺人」のほか、「監禁」や「不同意わいせつ致死」でも起訴されているようです。
このように、複数の犯罪により起訴されて、それらが併合罪(刑法45条)の関係にあるような場合には、懲役20年以上の判決を言い渡すことが可能です(同法47条、重い罪の1.5倍まで可能)。
●懲役23年は「重い」のか?量刑判断の仕組み
HBC北海道放送(3月7日)などによると、弁護側は「別の共犯者からの指示だった」として、情状酌量を求め、懲役15年を主張していたようです。
これに対して、検察側は、被告人の責任は別の共犯者と大きく異なるものではないとして、懲役25年を求刑していたようです。
ニュースでよく見聞きする「情状」という言葉ですが、ひとくちに「情状」といっても、「犯情」と「一般情状」に分けられます。
犯情とは、犯罪そのものに関する事情です。犯行そのものの悪質性や動機、計画性などがこれに含まれます。
一般情状とは、その他の事情、たとえば被告人の生い立ちや、反省しているか、などです。
量刑の判断では、このうち犯情が重視されます。一般情状は補助的な判断材料であり、量刑に犯情ほど大きな影響は与えないと考えられています。
●本件の場合
判決文が入手できていないため、やや抽象的な話になってしまうのですが、以下のように考えられそうです。
犯情の中の、特に犯行の悪質性としては、被害者が長時間監禁されていたり、コンビニで助けを求めた被害者を自ら引きずり出し、橋の上に連れて行ったことや、衣服を脱がせて土下座する様子を撮影していることなどが挙げられるでしょう。
「動機」について、交際関係のもつれなども、通常は殺人に結びつくようなものではありませんから、身勝手という評価を受けるでしょう。
また、犯行における役割について、衣服を脱がせて土下座する様子を撮影したり、橋の上で被害者の背中を押したりする行為は共犯者の指示と認められており、被告の役割は「やや」小さいと判断されているようです。
このように、今回の事件は、犯行態様の悪質性が際立った、といえるでしょう。犯情の観点から(被害者が1人の事案としては)かなり重い評価がされていると考えます。
「量刑調査報告集」(第一東京弁護士会 刑事弁護委員会編)などの資料によると、被害者1人の殺人を含む複数の犯罪で起訴された場合、懲役20年以上となっているものは、非常に少ないようです。