首都圏を中心に「闇バイト」によるものとみられる強盗事件が相次いで発生しました。住民に対する殺傷におよぶケースもみられ、事件が大きく報じられ注目を集めました。
もっとも、闇バイトによる事件は強盗に限りません。匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の一種で、様々な犯罪に手を染めている実態があります。
どんな類型や手口の犯罪があるかをあらかじめ知っておけば、闇バイトから自身や知人の身を守ることにつながるかもしれません。
闇バイトによる犯罪にはどのようなものがあるのかを、具体的な手口などと共に、警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する澤井康生弁護士に解説してもらった。
●組織犯罪絡みが多い闇バイト
闇バイトによる犯罪には、かけ子や受け子、出し子のほかにいろいろな犯罪類型があります。
警察庁のここ半年間の統計データを見ると、トクリュウ関連で検挙された者のうち、SNSで応募した闇バイト率が一番多い犯罪は、実は銀行口座の売買に代表される犯罪収益移転防止法違反であり、2番目はマネーロンダリングに代表される組織犯罪処罰法違反なのです。
その後に典型的な闇バイトとされているものが続き、3位が詐欺、4位が窃盗、5位が強盗となっています。
これ以外にも様々な闇バイトの類型がありますが、闇バイトで犯罪行為に手を出せば、逮捕・勾留・起訴され、刑務所に行くことになり、一生を台無しにしてしまうリスクがあることをよく理解しておくべきです。
●1位「銀行口座の売買」 2位「マネーロンダリング」
もともと持っている自分の銀行口座を特殊詐欺グループに売却して使用させる行為は犯罪収益移転防止法違反に該当し、違法な犯罪行為です。
犯罪収益移転防止法28条は、銀行口座を第三者に売却する行為自体を処罰対象としています。1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
なお、自分名義の銀行口座を新たに開設して特殊詐欺グループに売却した場合には、上記のとおり犯罪収益移転防止法違反が成立するほか、銀行に対する詐欺罪も成立します。第三者に売却する意図を隠して銀行から通帳やキャッシュカードをだまし取ったといえるからです。
また、特殊詐欺グループが被害者から騙し取った現金をいったん自分名義の銀行口座に入金させ資金洗浄する行為は、犯罪収益等取得事実仮装罪違反に該当し、違法な犯罪行為です。
組織的犯罪処罰法10条1項は取得した犯罪収益の帰属を仮装する行為、いわゆる「マネーロンダリング」を禁止しており、これに違反すると10年以下の懲役または500万円以下の罰金です。
特殊詐欺グループが上記マネーロンダリングの正犯になりますが、闇バイトとして報酬をもらって、銀行口座を提供した闇バイト側も上記犯罪の共同正犯となり、同様の罪責を負うことになります。
●3位「詐欺罪」 4位「窃盗罪」
オレオレ詐欺や振り込め詐欺などの典型的な特殊詐欺の場合、詐欺罪が成立し、10年以下の懲役です(刑法246条)。
特殊詐欺の場合、かけ子や受け子などの役割分担がありますが、闇バイトでやらされるのは受け子や出し子が多いです。
受け子の場合、被害者宅に向かう途中で警察官から職務質問を受けて身柄を確保されたというケースでも詐欺未遂罪が成立することに注意する必要があります。
まだ被害者宅に到着もしていないからセーフと思ったら大間違いです。既に仲間のかけ子がうその電話をかけていることからこの時点でも詐欺未遂罪の共同正犯が成立しています。
受け子が指示役からはっきりと詐欺とは聞かされていなかった場合であっても、客観的状況から詐欺かもしれないと認識し得れば詐欺罪の故意を認めることができますので、知らなかったというのは言い訳にはなりません(最高裁平成30年12月11日判決)。
また、出し子の場合、被害品のキャッシュカードを使用して銀行ATMから現金を引き出すと銀行に対する窃盗罪が成立することにも注意が必要です。
キャッシュカードを用いて銀行の占有下にある現金を取得している点で、もともとの被害者に対する犯罪とは別に新たに銀行に対する窃盗罪が成立します。
4位の窃盗罪は、スリやひったくりなどの古典的手口によるものより、オレオレ詐欺や振り込め詐欺などの典型的な特殊詐欺の亜種に分類されるものを念頭におくべきでしょう。
具体的には、うその電話をかけて被害者にキャッシュカードを用意させておき、受け子が被害者宅を訪問した際に事前に用意したトランプなどのカードが入った封筒とすり替えて盗むというやり方です。
この場合、うそを言って騙しているのですが、キャッシュカードを交付させるのではなく隙を見てすり替えて盗んでくるので、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立します。いわゆる「詐欺盗」という手口です。
窃盗罪の場合も、受け子が被害者宅に向かう途中で警察官から職務質問を受けて身柄を確保されたケースでは窃盗未遂罪が成立することに注意する必要があります。
既にかけ子がうその電話をかけていることから、受け子が被害者宅に向かう途中で既にキャッシュカードが盗まれる危険性が生じているとして窃盗未遂罪を認めるのが最近の最高裁の判断です(最高裁令和4年2月14日判決)。
●意外? 5位に「強盗罪」
住宅への侵入強盗の場合、被害者宅に侵入した時点で住居侵入罪が成立し、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です(刑法130条)。
被害者に暴行脅迫を加えて金品を強奪すると強盗罪が成立し、5年以上の懲役となります(刑法236条)。
このときに被害者にケガをさせてしまうと強盗致傷罪が成立し、無期懲役または6年以上の懲役となります(刑法240条前段)。さらに被害者を死なせてしまうと強盗致死罪となり、死刑または無期懲役です(刑法240条後段)。
強盗罪の場合はもともと法定刑が重いので、初犯でも執行猶予なしの実刑判決となると思ったほうがよいでしょう。特に強盗致死罪の場合は死刑か無期懲役のどちらかしかないので、少なくとも一生刑務所ということになりかねません。
注意しなければならないのは、強盗を数人の仲間で実行した場合、自分が被害者を傷つけないように注意していても、仲間がやり過ぎて強盗致傷罪や強盗致死罪となってしまった場合でも、共同正犯として同様の罪名を負うということです。
さらに、強盗罪の場合には「強盗予備罪」があることにも注意が必要です。強盗の準備をしただけでも強盗予備罪が成立し、2年以下の懲役となります(刑法237条)。
たとえば、強盗のために凶器を調達したり、地図を準備したり、レンタカーを借りたり、被害者宅の下見をするなどの準備行為をするだけでも強盗予備罪が成立します。まだ強盗罪に当たる行為に着手していないからセーフではありません。
●「闇バイトによる闇バイトの求人募集」もNG
ここまでみてきた類型以外にも、何気ない行為でも犯罪に該当していたというようなケースがあります。
【スマホの売り渡し】
自分名義のスマホを特殊詐欺グループに売り渡すことを繰り返すと、携帯電話不正利用防止法違反となります。
携帯電話不正利用防止法20条は、業として有償でスマホを譲渡する行為自体を禁止しており、これに違反すると2年以下の懲役または300万円以下の罰金です。
他人に譲渡する目的を隠して新たに店でスマホを買った場合には、店に対する詐欺罪も成立することに注意が必要です。
【リクルーター業務】
闇バイトを募集するリクルーター自体も闇バイトが行っている事例が見られます。SNSや求人サイトなどで闇バイトの求人募集を行うと、職業安定法違反が成立します。
職業安定法63条は、公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行う行為を禁止しており、これに違反すると1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金となります。
これも闇バイトを募集するだけなら犯罪行為にはならないと思ったというのは言い訳にはなりません。
【被害品の換金・保管など】
特殊詐欺や強盗などで手に入れた被害品(盗品)を運搬、保管、処分の斡旋をすると盗品等有償譲受罪が成立し、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金となります(刑法256条2項)。
たとえば、強盗で手に入れた金品を指示役のところまで運んだり、一時的に自宅で預かったり、質屋で換金したりする行為がこれに該当します。
闇バイトはほとんどの場合何らかの犯罪行為に加担することになるので極めて危険です。違法とは知らなかったという言い訳は通用しませんので、巻き込まれないよう十分な注意が必要です。