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「女性であれば誰でもよかった」同僚の飲み物に体液を混入、20代男性に執行猶予付き有罪判決
奈良地裁(クロチャン / PIXTA)

「女性であれば誰でもよかった」同僚の飲み物に体液を混入、20代男性に執行猶予付き有罪判決

講師として勤務していた学習塾内で、複数の同僚女性の飲料に自身の尿や唾液を混入させた疑いで、暴力行為等処罰法で起訴された20代男性に対して、奈良地裁は12月11日、懲役2年・ 執行猶予4年(求刑:懲役2年)の判決を下した。

被告人は判決までの公判で、涙ながらに自身の歪んだ欲望を吐露し、今後の更生を誓っていた。その一方で、事件発覚により被害品を飲用していたことを知った被害者らのダメージは大きく、公判時点でも続く精神的、肉体的な苦痛、そして日常生活に与えた影響は想像を超えるものだった。(裁判ライター・普通)

●約4カ月に及んだ常習的な犯行

事件報道は、被告人の名前とともに大々的におこなわれ、SNSでも過激な反応が目についた。

そのような事情からか、裁判所側から盗撮、録音防止と思われる電子機器の電源を切るアナウンスが多くおこなわれ、常時数名の職員が法廷内に待機していた。

被告人の着席位置も弁護人の近くでなく証言台前を指示され、審理中は傍聴席からその表情を読み取ることはできなかった。

被告人はスーツを着て、体格がよく、受け答えをハキハキする様子が印象的だった。

起訴状によると、被告人は、奈良市内の学習塾の従業員控室やトイレにおいて、約4カ月で合計14回、複数の女性従業員の水筒、ペットボトルに自身の尿や唾液を混入させて飲用不能にさせた。

起訴された罪名は「暴力行為等処罰法違反」だった。常習的な器物損壊行為に適用され(同法1条の3)、器物損壊罪よりも犯情は重い。

直接的な被害は、あくまで飲料を飲用不可にしたという事実のため、同罪での起訴となったが、被告人の口からは、性欲を満たす目的での犯行との供述もあった。

被告人は罪状認否で、起訴状の内容について「合っております」と答えた。

●徐々に犯行内容がエスカレート

法廷で取り調べられた証拠によると、被告人は事件当時大学に在学しながら、事件現場となった学習塾でアルバイト講師として働いていた。両親と同居しているが、父親との関係性にストレスを感じていた。

性的作品で飲料に異物を混入させる場面を見てから、自身の支配欲を満たしたいと考えるようになった。最初は、同僚の身分証に陰部をつけるなどしており、それがエスカレートした結果が異物混入だった。

混入時の様子は自身のスマートフォンにて動画保存していた。「女性であれば、被害者は誰でも良かった」とも取り調べで供述している。

各被害者は異変を感じていたようだが、飲料をそのまま口にしてしまった者もいた。異物混入の事実が発覚したことで、通院が必要なほど精神的ショックで体調を崩した被害者もいる。被害額は破棄した水筒の代金相当となるが、実害がその程度に留まらないのは明白だった。

被告人は、被害者らのいずれにも、賠償金を支払い、事件現場付近や被害者らに接触しないことを誓約する合意書を締結した。

●「同じ女性として、同じ親として」母親が涙ながらに謝罪

弁護側の情状証人として、被告人の母親が法廷に立った。

冒頭に被害者への思いを聞かれると「精一杯、謝罪をいたしますが、忘れたくても一生残るようなことをしてしまったと思います」と涙を流した。

被告人が供述する家でのストレスに母親も気づいてはいた。父親の物の言い方が、とても厳しく「息子がおかしくなるのでは?」と思うほどだったという。

元々、被告人は自分からあまり言葉を発するタイプでなかったため、積極的に会話を続けていたものの、特に変化を感じられないまま、事件の報せを受けた。

母親は、「私が気づいていれば、どうにかできたのに」と何度も後悔と謝罪の言葉を口にし、同じ女性として被害者に、そして同年代の子を持つ同じ親として被害者の両親に向けて述べていた。

●「不同意性交等罪に近いと思っています」

被告人質問では弁護人から冒頭、自身の認知の歪みについての認識を問われた。

弁護人「被害者にとっては今回の事件は、性犯罪だと思っています」 被告人「相手が望まないことを強要した不同意性交等罪に近いと思っています」

このほか、「普通でないことをされていることに興奮する」、「特定のジャンルに興味があった」、「女性を道具のように考えていた」など、自身について語った。

自身の認知の歪みだけでなく、被害者の心情の認識についても指摘された。

突然、被害者になった精神的ショック、自身が狙われているのではないかという恐怖、個人情報の流出による今後の不安。被告人は一つひとつの指摘に、考えが及んでいなかったことをただただ謝罪していた。

犯行時の心理状態は、あくまで父親からの支配的関係性であること以上に言及はされなかった。ただ、それが他者に被害を与える理由にならないとも指摘され、被告人もそれを肯定していた。

保釈されて後、被告人は性加害犯罪の専門機関で治療を受けている。そこで受けたアセスメントテストによると、「ストレスを過敏に感じやすい」という特性の他に、「女性への性加害について、犯行行為を矮小化して考える傾向がある」との結果がでたという。この結果に基づき、今後最低1年間は認知行動のプログラムを受講することを誓約した。

●被害者「お金を払ってもらったが、それで軽くなるのはおかしい」

被告人質問などの内容を踏まえ、被害者2名の意見陳述(検察官による代読)が行われた。

【被害者A】

飲料に違和感を覚え、そのまま飲料メーカーに送付したところ、尿素が混入しているという回答を得た。犯人を捕まえたいと、自身でカメラを設置して、同僚が犯人であると知って酷くショックを受けた。

発覚当初は、家族などに心配をかけたくない気持ちが強かったが、動機が性的なものと知り体調を崩した。吐き気、めまいなどの症状が続き、大学の授業中に突然泣き出すこともあった。それでも、心配されないよう明るく振る舞った。

塾講師として、生徒の指導に向き合いたいと思うも、事件現場でもある塾へ行くと考えると苦しい気持ちになった。しかし、通常より1時間早く出勤し、心落ち着かせる時間を作った。負けたくない気持ちがあった。しかし、精神的な負担が重なり、その後仕事を休むことになった。

初公判の様子は弁護人から聞いた。思ったより反省していると感じ、被害者の心情も学習しているとは思った。被告人の顔を最後に見たのは、塾の中で先輩と談笑しながら笑顔の様子。それだけに、怒りもあるが残念な気持ちがある。

被告人の弁償に合意はしたが、今でも近くにいないか気になってしまう。お金を払ってもらったが、それで軽くなるのはおかしいと思う。

【被害者B】

初公判の様子を弁護人から聞いて、被告人は思ったよりストレスがかかっていたことを感じた。だからといって、許せるものではない。(同じ被害者の)Aが気づかなければ、そのままだったと考えると恐怖。

職場に行くと思い出すので、塾はやめた。受験を控える高校3年生に罪悪感を覚えている。塾長は悪くないのに、何度も謝ってきた。事件以降、アルバイトはできていない。

被告人の弁償に合意したのは、何かしらの方法で償って欲しいと思ったから。しかし、許すような一文は入れていない。相応の処罰を与えて、二度と関わらないで欲しい。

●被害者に向き合う姿勢を継続できるか

結審を前に、被告人による最終陳述が行われた。

「被害者からの意見陳述を聞いて、改めて自分がとってしまった行動が許されないことであると、ただただ申し訳なく思っている。性加害プログラムに取り組み、その治療が終わっても傷つけた被害者がいることに一生向き合っていきます」

ゆっくりと読み上げられた「懲役2年・ 執行猶予4年」という判決主文、および判決の理由に一つずつ頷きながら聞いていた被告人。判決の中で、犯行は卑劣、悪質とされ、精神的被害から被害結果は大きいと言及された。被害者と一生向き合うと誓約した被告人は、どのような思いで判決を聞いていたのだろうか。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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