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別府ひき逃げ事件、SNS発信なければ「間違いなく風化していた」 遺族が考える捜査の課題
指名手配のポスター

別府ひき逃げ事件、SNS発信なければ「間違いなく風化していた」 遺族が考える捜査の課題

「別府ひき逃げ事件」で重要指名手配された八田與一容疑者は今、どこで何を思うのか。遺族は道路交通法違反ではなく、殺人罪への罪状変更をもとめている。大切な息子を亡くしてから、必死に行方を追い求めてきた遺族が課題を整理した。

遺族は、自分たちがSNSで情報を積極的に発信していなければ「間違いなく事件は風化していたと思う」と話す。

成果をあげられない警察への複雑な思い、手紙をやりとりした八田容疑者の家族への失望、それでも遺族は「諦めない」と決めている。(ニュース編集部・塚田賢慎)

●たった数十秒の八田容疑者との接点…なぜこんな事件に

八田容疑者は2022年6月29日、大分県別府市の交差点で停止中のバイク2台に軽乗用車で追突し、大学生1人を死亡させて現場から逃走した疑いがある。

警察庁は今年9月8日、道交法違反事件で初の「重要指名手配」に指定した。全国の警察官に手配書をあまねく配布し、行方を追っている。

事件に遭遇し怪我を負った友人によれば、事件の直前、現場近くのショッピングモールの駐輪場で、大音量で音楽をかけながら歩いてきた八田容疑者と偶然すれ違い、少し見ただけで、一方的に言いがかりをつけられたという。

少し離れた場所からその様子を見ていた友人は、八田容疑者と別れたあと、被害者からそのことを聞いているという。

「友人は、息子が『爆音に振り返った』と表現していました。その後、八田は息子に『お前はその遊歩道でバイクに乗っていいのか』と言ったそうです。実際はまたがっていただけでしたが、息子は謝り、その場を離れたと聞いています」

その友人の証言は、事件当日、救急車で救急隊員に、病院で警察の事情聴取で伝えているという。

猛スピードで被害者らに突っ込んだのはその後だ。ブレーキ痕は見つかっていない。

事件直前の経緯とその悪質さから、遺族は「道交法違反」ではなく「殺人罪」に問われるべきだと考えている。大分県警察も故意に被害者を狙った可能性も示唆している。大分県警察に告訴状を提出し、「殺人」の罪名変更を求めた。

告訴状は即日受理され、5万2000人以上の署名も手渡したが、逮捕容疑の切り替えに関して県警は、現在新たな証拠を鋭意捜査しているとのことで、現時点ではないという考えを一部報道機関に示している。11月2日に逮捕容疑の切り替えがあったが、道交法のままだとしているという。

発生から1年以上が経って、ようやく「重要指名手配」にまで漕ぎつけたことは​​「大きな前進」とする一方、道交法違反容疑での指定に、他の多くの指名手配事件の被害者の現状も考えると複雑な思いも隠せない。

逮捕容疑に時効のない殺人罪・殺人未遂罪を加えることと、逮捕後の厳罰を望んでいる。

「全国指名手配といえど、大分県外には八田を知らない警察官が数多くいました。ポスターを貼ってほしいと持ち込んでも多くは断られました。

重要指名手配ポスターが日本全国に貼られることはとても大きな前進と言えます。実際、警察への情報提供も急増し、専従捜査員も増員されたと聞きました」

●積極的な取材対応、インスタグラムやサイトでの発信の効果

事件発生後、成果をあげられない警察に業を煮やした遺族らは、Twitter(現X)、インスタグラム、公式サイトを作って自ら発信を続けただけでなく、メディアの取材にも応じてきた。

突き動かしたのは、理不尽な事件で失った息子への思いだけでなく、「警察の捜査状況が把握できず、このまま風化してしまうのではないか」という不安もあった。

初めから複数の情報ツールを駆使できていたわけではない。友人や知人だけだった支援の輪は1人ずつ増えていき、多くの人が知恵と力を貸してくれたという。

「知らないことは何でも教わり、これまでやったことないことにできるだけ挑戦しようと思いました。苦手だったSNSも少しずつ使えるようになり、これまでは出会えていなかった方々と交流できるようになりました」

警察と民間の"包囲網"が八田容疑者に迫れるか。裁判で罪を問うことができたとしても、遺族には懸念がある。

「殺人への罪名変更なく、道交法違反だけの罪が確定すれば、わずか数年で八田容疑者が社会復帰し、新たな被害者が出るかもしれません。これが私たちが最も懸念していることです。

私たち遺族は、八田を一番重い罪で処されることを切望します。軽い刑で出所すると、私たち遺族や情報提供して下さった方への報復もしかねません」

●警察より犯罪者の方がネットに精通しているのでは

指名手配事件の被害者遺族となって痛感していることがある。

「地方警察のIT化の遅れや、他の重要指名手配犯が何十年も捕まってない現実があります。捜査手法が昔のままで、インターネットを使った情報収集力は警察より犯罪者のほうが上回っているのではないでしょうか。

私たちがネットで情報を集めているように、八田容疑者も捜査状況を調べているはずです。

本気で逃げ隠れする八田より、警察の知識も熱意も上回っていなければ絶対に捕まりません。被害者遺族への情報開示や捜査状況説明も不十分に感じます。

警察はプライドを捨て、力を貸してくださる方々と手を取り合い捜査にあたってほしいです。これからのネット社会の犯罪捜査、防犯活動のヒントがたくさんあるはずです。

八田に次の罪を犯させないため、次の被害者を出さないためにも、威信をかけて本気で取り組んでほしいです」

●八田容疑者の母親から届いた手紙「親としての責任」

事件後、警察を通じて八田容疑者の家族から手紙を受け取った。

「八田容疑者の母親から手紙を2通受け取っています。息子のことを詫び、親としての責任を果たしていくとの内容でした」

遺族は「メディアを通じて息子に出頭を呼びかけてほしい」と家族に伝えたが、その訴えはいまも叶っていない。

そんな遺族のもとには、事件や事故の被害者遺族から応援メッセージが寄せられている。また、「関東交通犯罪遺族の会」や大分県の犯罪被害者団体からのサポートもある。

平穏に生活していれば、こんな悲しい未来が訪れることは誰も予想していないだろう。それでも、遺族は諦めなかった。

「同じことがあっても泣き寝入りは絶対にしないでほしいです。諦めなければ助けてくれる方は必ずいます。逆に諦めたらすぐに終わります。1人で悩まず、悔しければ、悲しければ、できるだけ早く力を借りることです。私はそれで救われました。本当にいろんな方に感謝の毎日です」

なお、遺族は私的に懸賞金を用意しているが、身元確認に必要な連絡先などのない情報提供も多いという。トラブル防止のため、懸賞金規約の確認をしてほしいと話している。

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