歌手の氷川きよしさんが4月27日、3月31日付で所属事務所「長良プロダクション」から独立したと発表した。新会社「KIZNA」を設立し、今後も歌手として活動していくという。8月にはコンサートツアーも控えており、活動再開をファンたちは待ち望んでいるようだ。
一方で、気になるのは今後の芸名だ。前所属事務所は氷川さんの愛称「Kiina」「KIINA」の2つを商標出願している。現在は審査中で結論は出ていない模様だが、氷川さんは阻止できるのか。気になる「Kiina」の行方について、舟橋和宏弁護士に聞いた。
●今年3月に出された「拒絶理由通知」の意味
——愛称Kiina(きーな)を氷川さんが今後使えなくなる可能性はあるのでしょうか?
氷川きよしさんは、新事務所においてもKiinaという芸名を表記していますが、同名(「Kiina」「KIINA」)は前事務所が昨年中に商標出願をしています。芸名については、事務所が商標出願を行うことがままありますが、事務所が商標権を有する場合、独立後の芸名使用が商標権侵害となるリスクが生じます。
ただし、上記商標出願については、今年3月1日付で拒絶理由通知が出されています。拒絶理由通知とは、商標出願について、審査官が登録できない理由があると判断する場合、当該理由を明示し、出願人に意見提出や出願補正の機会を与えるものです。
かかる拒絶理由通知に対し、意見書等を提出しないとする場合には、当該出願について拒絶査定が出される等により、商標登録が認められないことになります。
拒絶理由の内容は公開されていませんが、今回の商標出願が芸名であることからすると、商標法4条1項8号に定める「著名な芸名等」が考えられます。この場合、当該氏名の人物等から商標出願に関する承諾書を取得し、これを特許庁に提出することが一般的です。
しかしながら、独立時にトラブルがある場合、承諾書の取得は困難であると言わざるを得ません。そして、承諾書等が取得できない場合、上記のとおり、商標出願は拒絶される可能性が高いと考えられます。
事務所とのマネジメント契約においては、タレントの氏名、芸名について事務所が利用可能であるといった規定を置くことがありますが、この条項により直ちに商標登録ができるということにはなりません。芸名は事務所が決めることも多いですが、その関係から事務所が商標出願し、後にトラブルになるケースも散見されます。
事務所が出願を行うことの是非はともかく、芸名に関する商標権をいかに定めるか、契約書等により定める等も重要です。また、退所後の芸名使用を禁止する条項については近年当該条項を無効とした裁判例もあり、タレント等の退所時には事務所側に慎重な対応が求められるところです。