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「3円出せ。殴るぞ」郵便局で脅す→防犯ブザーに驚いて逃走 これでも強盗になる?
事件のあった船岡簡易郵便局(Googleストリートビューより、イラストはいらすとや)

「3円出せ。殴るぞ」郵便局で脅す→防犯ブザーに驚いて逃走 これでも強盗になる?

高知県高知市の船岡簡易郵便局で、男性が局長に対して「3円出せ。殴るぞ」などと現金を脅し取ろうとしたとして、強盗未遂の疑いで高知県警に逮捕された。

報道によると、男性は郵便局で63円のハガキを購入しようとしたようだが、手元には60円しかなかった。足りない3円を「現地調達」しようと局長に要求したという。局員が鳴らした防犯ブザーに驚いた男性はいったん逃走したものの、約20分後現場付近に戻ってきたところを逮捕された。

金額を問わず、現金を脅し取る行為が許されないのは当然だ。今回のケースについて詳細は不明だが、今のところ凶器等を所持していたといった事実は報じられていない。もし単に「3円出せ。殴るぞ」と言っただけでも強盗未遂になってしまうのだろうか。高橋麻理弁護士に聞いた。

●「3円出せ。殴るぞ」が強盗罪の「脅迫」に当たるかどうか

——強盗(未遂)罪はどのような場合に成立するのでしょうか。

強盗罪が成立するためには、(1)「暴行又は脅迫」を用い、(2)「他人の財物」を、(3)「強取した」という3つの要件をまず満たす必要があります。

そして、(1)「暴行又は脅迫」は、人の身体に向けられた不法な有形力の行使又は害悪の告知で、相手の反抗を抑圧するに足りる程度のものである必要があります。

「相手の反抗を抑圧するに足りる程度」というのは、簡単に言えば「それをされたり言われたりしたら、何も抵抗できなくなってしまう」というような強いレベルのものを指します。このレベルに達する暴行、脅迫があったのかという点は裁判でも争われることがあります。

なお、暴行又は脅迫を用いて財物を強取しようとしたものの失敗に終わったという場合は強盗未遂罪が成立します。

——今回のケースではどの要件が問題になりますか。

報道によれば、逮捕された男性は「3円出せ。殴るぞ」などと言っていたようです。

これが事実であるという前提で考えると、「3円出せ。殴るぞ」と言った行為が強盗罪の「脅迫」に当たるのかが問題になると思います。

強盗罪で想定されている「脅迫」は、それを言えば、言われた側が、もし要求に従わなかった場合、自分の身や名誉等にどんな危険が生じるかと恐怖を感じ、反抗できなくなってしまうレベルのものです。

このレベルに至っていたかどうかの評価は、その言葉の内容それ自体だけでなく、場所、時間、周囲の状況、当事者の性別・年齢・体格等の事情を考慮して客観的になされます。

客観的に評価されるというのは、脅された本人がどう受け止めたかということに着目するのでなく、同じ立場に置かれた人たちは通常どう受け止めるだろうかという基準で評価されるという意味です。

今回は、「3円出せ。殴るぞ」と言った行為が、その際の場所、時間、周囲の状況、当事者の性別・年齢・体格等の事情を考慮して考えたとき、通常であれば、それをその状況で言われたら、言われたとおり3円を出さないと、殴られるなど身の危険があると恐怖心を抱き、その恐怖心から到底反抗などできない状況になるといえるのか、という点が問題になるといえるでしょう。

●言動にやや違和感?「責任能力、慎重に判断することになる」

——今回のケースで、強盗未遂罪は成立するのでしょうか。

結論としては、具体的な状況によると思います。

たしかに、要求している金額は少額です。また、包丁等の凶器を示しながら言ったなどという事情も今のところ報じられていないようです。そうすると、反抗できないようなレベルにはなかったのではないかという見方もあり得るところです。

反抗できないようなレベルにはなかったのであれば、強盗未遂罪ではなく、恐喝未遂罪と評価される可能性もあります。

しかし、被疑者と被害者の距離、被疑者と被害者の体格差、声の大きさ・調子、所持品の状況(被疑者が凶器を隠し持っているように見える状態だったか等)、周囲の人の有無等によっては、「3円出せ。殴るぞ」と言ったことが強盗罪の脅迫として評価されることもあり得ると考えます。

——「刑事責任能力の有無を含め捜査している」とも報じられています。今後の捜査や起訴の有無等はどうなることが考えられますか。

詳細な事実関係がわかりませんので一般論で申し上げます。

今回の報道を耳にしたとき、ちょっとした違和感を感じた方もいるかもしれません。

その違和感は、「ハガキを買うために3円不足したことが発覚したとき、普通、人を脅して3円を奪おうと考える?」、「防犯ブザーを鳴らされて現場から逃走したのに、20分後にどうして現場に戻ってくるの?捕まるだろうって思わないのかな?」というようなものではないでしょうか。

想像になりますが、捜査機関としても、そのような被疑者の言動に注目し、責任能力の有無を捜査する必要があると判断している可能性があります。

その場合、具体的には、被疑者の病歴等に対する捜査、簡易鑑定を行うなどしつつ、取調べ時の言動も合わせ、慎重に判断することになるでしょう。

起訴するかどうかの判断にあたっては、責任能力の問題のみならず、被害者の処罰意思、本件犯行態様の悪質性評価、被疑者の再犯可能性等が考慮されることになると考えます。

プロフィール

高橋 麻理
高橋 麻理(たかはし まり)弁護士 弁護士法人Authense法律事務所
第二東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。検察官を任官し、数多くの刑事事件の捜査・公判を担当したのち退官。弁護士登録後は、捜査や刑事弁護で培ったスキルを活かし、企業不祥事・社内不正における社内調査のアドバイスや、対象者への事情聴取などにも注力。2023年12月には弁護人を務めた刑事裁判で無罪判決を獲得。東証プライム上場企業の社外取締役(監査等委員)など、複数の企業で社外役員を務め、企業法務にも精力的に取り組んでいる。法律問題を身近なものとして分かりやすく伝えることを目指し、メディア取材に積極的に対応。子どもへの法教育にも意欲を持っている。

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