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安倍元首相襲撃で使用された「手製銃」、法的にはどう規制されている?
増上寺に設けられた献花台(7月11日、都内、弁護士ドットコムニュース撮影)

安倍元首相襲撃で使用された「手製銃」、法的にはどう規制されている?

安倍晋三元首相が奈良市内で街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、殺人の疑いで送致された被疑者の男性(41)が、ユーチューブの動画を参考にして銃を製造した旨の供述をしたと報じられている。

事件は7月8日11時半ごろに発生。男性は、選挙応援の演説をしている安倍元首相の背後方向から接近し、手製銃を発砲して殺害した疑いが持たれている。

報道によると、使用された手製銃は、銃身とみられる2本の筒をテープと木の板で固定したような構造で、一度の発砲で6個の弾丸が発射される仕組みだったという。弾丸はカプセルのような小さな容器に入れ、それぞれの筒から発射する散弾銃に似た造りだった可能性も報じられている。

安倍元首相から約20メートル離れた場所に停まっていた選挙カーの車体に、流れ弾による弾痕とみられる穴が複数確認されたといい、使用された手製銃には相当程度の威力があったことを伺わせる。

この「手製銃」は、法律で規制されている武器なのだろうか。そもそも「銃」はどのように規制されているのだろうか。高橋麻理弁護士に聞いた。

●「けん銃」かどうかよりも「『銃砲』かどうか」

——銃について、法律はどのように定義していますか。

銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)が、「銃砲」として定めています。

銃砲とは、けん銃、小銃、機関銃、砲、猟銃、その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃とされています(銃刀法2条1項)。

そして、銃砲のうちいずれの銃に当たるのかについては、法令には定義がありません。いずれに当たるかは、構造、形態、使用方法などの事情を一般社会通念に従って判断することになります。

たとえば、銃砲のうち、「けん銃」というのは、一般社会通念上、肩付けをせず片手でもって照準、発射できる形態を持ち、人の殺傷に適するように作られた銃を指しています。過去の裁判例の中には、けん銃について、「金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃器で片手で発射操作のできるもの」と表現するものもあります。

——今回の「手製銃」は「けん銃」に当たるのでしょうか。

今回の犯行に使用されたとされる「手製銃」は、人の殺傷に適するように作られたといえるでしょうから、通常の体格の者が片手で照準発射できる形態を持っていれば、「けん銃」に当たるといえそうです。

一方で、「手製銃」は3つの鉄パイプ様のものをガムテープで巻いた形状であったとも報じられており、社会通念上想定される「けん銃」の形状とはかけ離れているようにも思えます。

もっとも、重要なのは、「手製銃」が「けん銃」といえるかどうかというよりは、銃刀法上の「銃砲のいずれかに当たるといえるかどうか」という点です。

「手製銃」が、その構造、形態等に鑑みて「けん銃」に当たらないと評価されたとしても、人を殺傷する威力を十分に有していて、また、火薬の爆発力によって弾丸を発射する構造であったといえれば、少なくとも、銃刀法上の銃砲としての「その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲」には該当するといえるでしょう。

●銃砲の所持・使用はやはり「不利な事情として働く可能性高い」

——一般的に、殺人事件で拳銃を所持していたという事情はどのように扱われるのでしょうか。

今回の犯行に使用されたとされる「手製銃」が銃刀法上の「銃砲」の定義に当たるとすれば、殺人罪に加え、銃刀法違反の点も起訴される可能性があります。

銃刀法違反と評価される点は2つ考えられます。

1つは、銃砲を発射した行為について、道路、公園、駅等不特定多数の人が利用する場所で銃砲を発射してはいけないという規定に違反すると考えられる点です。

もう1つは、銃砲を所持した行為について、その所持を禁止する規定に違反すると考えられる点です。

銃砲の所持等はあくまでも殺人の手段であるのに、殺人罪と別途評価することに違和感を覚えた方もいるかもしれません。しかし、裁判例でも、銃砲による殺人について、殺人罪とともに、銃刀法違反の点も起訴され、有罪判決が言い渡されることはあります。

——犯罪の成否のほか、量刑への影響などはあるのでしょうか。

銃砲を所持、使用しての犯行であるという点は、量刑理由としても被告人に不利な事情として働く可能性が高いといえます。

凶器を使用しないケースや、銃砲以外の凶器を使用するケースと比較して、銃砲を使用しての犯行は、殺傷能力が特に高い凶器を用いての犯行であると評価されるのが通常です。

その殺傷能力の高さから、銃砲を所持、使用しての犯行は、それ自体、被告人の被害者に対する殺意が強固であったことを裏付ける事実となりうるからです。

また、銃砲は、通常、一般人が容易に入手することができない凶器です。これを入手して犯行に及んでいるという点において、犯行が偶発的なものではなく、用意周到に計画して行われた犯行とも評価でき、その意味でも被告人に不利な事情として働く可能性があります。

プロフィール

高橋 麻理
高橋 麻理(たかはし まり)弁護士 弁護士法人Authense法律事務所
第二東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。検察官を任官し、数多くの刑事事件の捜査・公判を担当したのち退官。弁護士登録後は、捜査や刑事弁護で培ったスキルを活かし、企業不祥事・社内不正における社内調査のアドバイスや、対象者への事情聴取などにも注力。2023年12月には弁護人を務めた刑事裁判で無罪判決を獲得。東証プライム上場企業の社外取締役(監査等委員)など、複数の企業で社外役員を務め、企業法務にも精力的に取り組んでいる。法律問題を身近なものとして分かりやすく伝えることを目指し、メディア取材に積極的に対応。子どもへの法教育にも意欲を持っている。

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