別れた恋人や配偶者への腹いせのために、交際中に撮影した性的な写真や動画をインターネット上に公開する「リベンジポルノ」が、国内外で問題になっている。アメリカでは、リベンジポルノのために、氏名を変えざるをえなくなった女性もいる。
朝日新聞によると、米フロリダ州の女性(30)が裸の写真をポルノサイトなどに掲載されたが、その写真を持っているのは元恋人の男性だった。女性は警察に掛け合ったがラチが明かず、弁護士を通じて男性に削除依頼したところ、写真はいったんサイトから消えたという。
ところが、女性が新しい恋人との写真をフェイスブックに投稿すると、再び、過去の裸の写真や動画がネットに掲載されはじめ、今度は200以上のサイトに拡散した。しかも、氏名や職場までも一緒に書かれていた。女性は何年もかけて、地道に削除依頼を続けたが、とうとう法的に氏名を変えることにしたのだという。
このようなリベンジポルノの被害は、日本でも若い女性を中心に広がっている。一度インターネット上に画像が流出してしまうと、完全に削除するのは難しい。今回のアメリカの女性のように、日本でもリベンジポルノを理由として、被害者が氏名を変更することはできるのだろうか。川添圭弁護士に聞いた。
●家裁が認めるかどうかは、ケースバイケース
「戸籍上の氏名を変更するためには、戸籍法の規定にもとづき、家庭裁判所の許可審判を受ける必要があります。変更が認められるかどうかはケースバイケースです。しかし、3つの条件が満たされた場合は、変更許可の審判が認められる可能性があるでしょう」
このように川添弁護士は話す。「3つの条件」とは次のようなものだ。
(1)リベンジポルノによって、写真などの画像とともに個人の氏名や住居が特定されてしまう
(2)写真流出が本人の周囲に知れ渡ったり、そのことが原因で誹謗中傷を受けたりしているなど、日常生活で支障が生じている
(3)戸籍上の記載を変更することで、リベンジポルノによる被害が避けられることが期待できる
では、フルネームを変更するのと、苗字はそのままで、名前だけ変更するのとでは、違いがあるのだろうか。
「氏(苗字)の変更が認められるためには、『やむを得ない事由』が必要です(戸籍法107条1項)。一方、名(名前)の変更が認められるためには、『正当な事由』が必要とされています(戸籍法107条の2)」
●「やむを得ない事由」のほうがハードルが高い
苗字変更のための「やむを得ない事由」と、名前の変更のための「正当な事由」。いったい、違いはどこにあるのだろう。
「『やむを得ない事由』は、『正当な事由』よりも、厳格に解されています。リベンジポルノによる被害を理由とした場合、名前の変更許可は比較的認められやすいでしょう。しかし、『やむを得ない理由』が必要とされている苗字のほうは、簡単にはいきません」
では、苗字やフルネームを変更したい場合、具体的には、どんな条件が必要となるのだろうか。
「珍しい苗字で、個人を特定しやすい場合などです」
たしかに、よくある苗字だと、名前の変更だけで事足りるのかもしれない。ただ、仮に、苗字や名前が変更できたとしても、リベンジポルノのために、そんなことをしなければいけないなんて辛すぎる。このような被害を食い止めるために、国による対策を検討すべき時期にきているのかもしれない。