「目が合ったと言いがかりをつけられ、一方的に暴行を受けました。病院へ搬送され、目が覚めたのが、3日後でした」。弁護士ドットコムに、見ず知らずの通行人から暴行された人が「加害者を捕まえてほしい」と怒りの投稿を寄せました。
相談者は相手から頭を強打され、失神。加害者はさらに相談者の頭を何度も踏みつけてきたといいます。一部始終を目撃した友人によれば、「一歩間違えば殺人事件だったかも」という、ひどい暴行で、全治3カ月のケガと診断されました。しかし、加害者が誰か特定できていません。
警察に行ったものの「こちらにも、非があるんじゃないかみたいに決めつけられた」と相談者は感じています。そこで、「告訴状と被害届どちらが有効でしょうか」と質問し、警察が捜査に動くための方法を聞いています。
告訴状と被害届の違いについて、森本明宏弁護士の解説をお届けします。
●告訴すれば捜査を義務付けられる
ーー被害届と告訴状はどのように違うのでしょうか。
「被害届」は、捜査機関に対し、犯罪事実を申告することであり、捜査開始のきっかけとなるものです。
これに対し、「告訴」は、犯罪事実の申告に加え、犯人の処罰を求める意思表示を含んでいるという点が被害届と異なります。告訴は口頭でもできなくはありませんが、通常は「告訴状」という書面でおこないます。告訴は犯人が分からなくてもできます。
告訴には、司法警察員(捜査する警察官)に、関連する書類や証拠物を速やかに検察官に送ること(検察官送致)を義務付けるという効果があります。また、告訴をした場合には、検察官の処分結果の通知を受けることができます。
●強制力がある分、告訴は簡単ではない
ーー今回のようなケースの場合は、告訴状を提出した方がよいのでしょうか。
このような法的な効果が与えられていることもあり、告訴状を提出する際には、その内容をかなり厳格に審査される傾向にあります。
捜査機関に受理される告訴状を作成するのは一般の方にはかなり困難であり、また、弁護士や行政書士などの専門家に依頼した場合には費用がかかってしまいます。
これに比べ、被害届では多くの場合捜査機関が代筆で書面を作成してくれるので簡単です。また、犯罪性が明らかな事件であれば、告訴がなくても捜査機関は捜査をします。
そのため、このような場合には、告訴と被害届にはそれほど違いは生じてきません。
ただし、犯罪の中には、「親告罪」といって告訴がなければ、処罰できない犯罪があります。代表的なものは、器物損壊罪などです。このような犯罪の被害を受けた場合には、被害届では処罰ができませんので、告訴をする必要があります。
今回のような、入院を伴うような傷害事件であれば、通常は被害届で足りる場合が多いとは思います。しかし、警察の対応が不十分であり、捜査の義務付けをする必要があると考えるのであれば、告訴状の提出を検討されてみてもいいかもしれません。
(弁護士ドットコムライフ)