兵庫県姫路市のJR山陽線で2月中旬、走行中の回送列車が異常音で緊急停止するというトラブルがあった。報道によると、線路上に石が砕けたような痕跡があったという。車両に異常が見つからなかったため、約15分後に運転は再開されたが、運休や遅れで約9600人に影響が出たそうだ。
今回は幸い、けが人などは出なかったようだが、警察は線路上に「置き石」がされていた可能性を視野に入れて、「列車往来危険罪」の疑いで捜査をしているようだ。あまり聞きなれない罪名だが、いったいどんな犯罪なのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
●「往来危険罪」の罰則は極めて重い
「列車往来危険とは、『列車の脱線、転覆、衝突等が生じるおそれのある状態』を指します。
往来危険罪(刑法125条1項)は、『鉄道もしくはその標識を損壊し、またはその他の方法により、汽車または電車の往来の危険を生じさせた者は、2年以上の有期懲役に処する』という内容です。
電車のレール上に置き石をすることは、『その他の方法』に含まれるため、この犯罪に該当する可能性があります」
法定刑が『2年以上の有期懲役』ということだが、これはどれぐらい重い罪なのだろうか。
「たとえば、往来妨害罪(同124条1項)は、『陸路、水路または橋を損壊し、または閉塞して往来の妨害を生じさせた者は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処する』と規定しています。
これと比べますと、往来危険罪の法定刑は、極めて重いことが分かります」
なぜそんなに重いのだろうか?
「それは、列車の往来危険が生じた場合、非常に多くの人の生命、身体の安全が犠牲になる可能性が高く、このような危険な行為を故意に行った場合には、厳罰に処す必要があるからでしょう。
また、重い法定刑を定めておくことで、このような犯罪を行わせないように予防しているということもできます」
●結果によっては「死刑」もあり得る
もし重大な結果が発生してしまった場合は、さらに重い刑罰が科せられるようだ。
「往来危険罪を犯した結果、列車を転覆させたり破壊した場合には、往来危険汽車等転覆・破壊罪(刑法127条)として、『無期または3年以上の懲役』に処せられます。
さらに、その上で人を死亡させた場合には、『死刑または無期懲役』に処せられます」
つまり、置き石によって、もし列車が脱線し、死者が出たような場合には、「無期または死刑」という重い罰が科せられる可能性があるということだ。田沢弁護士も「往来危険罪は、極めて重い犯罪類型ということができます」と指摘していた。