「誘拐は本物ではなく、警察の捜査能力を確認する訓練の手伝いだと聞かされ、信じた」
昨年11月、東京・田園調布で女子中学生が身代金目的で誘拐された事件。監禁罪などで逮捕・起訴された犯人グループの1人が、警視庁の調べに「捜査訓練の一環だと信じていた」と供述しているという。
朝日新聞によると、この男は、インターネットの闇サイトを通じて「仕事がある」と持ちかけられ、犯行に加わった。しかし男は、仲介役とされる男から「警察の訓練の一環で、女の子を拉致する。もし捕まっても、すぐに解放する」などと説明されたと、供述している。
もし仮に、男の供述が事実だった場合、罪を犯す意思がなかったとして、無罪になる可能性はあるのだろうか。また、罪は免れなくても、量刑を判断する際に考慮されるのか。元検事で刑事事件にくわしい大竹健嗣弁護士に聞いた。
●「責任逃れ。まず無罪になることはない」
「今回の場合は、責任逃れの弁解だと判断され、まず、無罪になる可能性はないでしょう」
大竹弁護士は、こう結論付ける。
本来、「罪を犯す意思がなかった」という弁明は、内容の合理性や信用性の有無で、結論が異なる。今回は、その信用性が極めて低いのだという。
そもそも常識的な人なら、闇サイトに近づかない。ところが男は意識的に闇サイトを訪れており、そこでの「仕事」も当然、反社会的行為だと気づいていたはずだ。
「警察が、そんなサイトで捜査訓練の協力者を求めるわけがない。誰もが当然、気づくことです」
●「反省なし」とみなされ、かえって重い刑に
仮に、仲介者に「捜査訓練の一環」だと言われたことが事実だとしよう。
「それでも、仲間たちが、嫌がる女子中学生を縛り、監禁するのを目の当たりにしているのです。『捜査の一環』でないことを強烈に認識できたはずです」
つまり、罪を犯す意思がなかったと弁解しても、責任逃れにしか聞こえない。
「同じ弁解を裁判でも続けるのであれば、『反省していない』として、かえって重い刑に処せられることになるでしょう」
このように大竹弁護士は、厳しい見解を示していた。