調理師や建築士、介護福祉士など公的な資格試験は、関連業種での「実務経験」が受験資格となっているものも多い。だが一部で、実務経験をでっち上げる「インチキ」が行われる例もあるようだ。
青森県は10月下旬、同県が薬事法に基づいて実施した医薬品の登録販売者試験で、実務経験を偽る不正があったとして、合格取り消しの処分を行ったと発表した。同県によると、大手スーパーの従業員が、勤務先の発行した「ウソの証明書」を提出して受験・合格していたことがわかったという。
合格が取り消されるのはもちろんのことだろうが、もし偽の証明書で不正受験をした場合、試験を受けた人が刑法などで処罰される可能性はあるのだろうか。また、偽の証明書を発行したスーパーの責任はどうだろうか。石井龍一弁護士に聞いた。
●「免状不実記載罪」という罪がある
「刑法157条2項は、公務員に対し虚偽の申立をして免状にウソの記載をさせた場合、免状不実記載罪として、1年以上の懲役又は20万円以下の罰金に処するとしています。
問題となった薬事法上の登録販売者資格は、医薬品の販売を行うための権利を付与する免状とも考えられます。したがって、実務経験について虚偽の申立をして、資格(免状)を得れば、上記の犯罪に該当する可能性があると考えられます」
一方、偽の証明書を発行した勤務先の責任はどうなるのだろうか?
「虚偽の証明書を作成することは、文書偽造行為の一種ではあります。しかし、刑法では私文書(公務員ではない私人が作成する文書)の偽造についての処罰は限定的に考えられており、勤務先が医薬品販売経験に関して、虚偽の証明書を作成しただけでは犯罪になりません。
ただし、勤務先が、その従業員に医薬品販売者資格を不正取得させる目的で虚偽の証明書を発行したということになれば、話は別です。その場合は従業員の免状不実記載罪を幇助したことになり、同罪の幇助罪が成立し得ます。
また、もしこれが、勤務先が組織ぐるみで不正取得を首謀していたというケースであれば、同罪の共同正犯に問われる場合もあり得るでしょう」
石井弁護士はこのように解説していた。
なお、青森県の発表によると、今回の不正はスーパーの自主点検で発覚。県はスーパーに文書で厳重注意し、再発防止を指導したということだ。