日本弁護士連合会(日弁連)は10月6日、福井市内で死刑制度について考えるシンポジウム「死刑廃止と拘禁刑の改革を考える〜寛容と共生の社会をめざして」を開催した。
えん罪事件に取り組む弁護士や死刑制度を研究する学者らが登壇し、廃止した場合の代替刑をどうするのか、諸外国の状況はどうなっているのかなど、死刑制度廃止にかかわるさまざまな問題を多角的に議論した。
日弁連は、10月7日に福井市で開催する人権擁護大会で、組織として初めて死刑廃止を目指す宣言案を採択する方針で、今回のシンポにも大きな注目が集まった。会場となった福井市内のホテルには、弁護士だけでなく、報道関係者や死刑問題に関心を持つ一般人ら600人あまりが詰めかけた。
●アメリカでも、死刑制度は衰退しつつある
シンポジウムで大きな議論のひとつとなったのが、諸外国における死刑制度の現状だ。
甲南大学法学部の笹倉香奈教授(刑訴法)は、先進国では死刑制度を置く国が減り続けていることを指摘。G8(主要国首脳会議)に限れば、死刑を存置しているのは日本とアメリカのみで、「アメリカでさえ、死刑制度は衰退しつつある」と語った。
笹倉教授によると、事実上、死刑制度を廃止する州は増えており、制度が置かれている州でも、死刑を執行する州は2015年で6州にとどまったという。
その原因として、アメリカでは「イノセンス・プロジェクト」という、DNA鑑定などを活用した、専門家などによるえん罪救済活動によって、数多くの死刑確定者のえん罪が明らかになったことをあげた。
「アメリカは刑事司法制度のお手本ではないが、そのアメリカにおいてさえ、死刑制度は衰退しつつある」「日本は世界から取り残されつつある」と語った。
●「マスコミは死刑制度の廃止についての報道を避けてきた」
朝日新聞オピニオン編集部次長の井田香奈子氏は、死刑の問題を報道で扱うことの難しさについて語った。
「これまで朝日を含め全国紙は、制度運用について批判的な目は向けつつも、死刑制度の廃止について報道してこなかった。死刑廃止を訴えることで、普通の読者の感覚とかけ離れてしまうことを心配したのかもしれないし、どんなに立派なことを書いても自己満足になってしまうという懸念があったのかもしれない」
そうした中、朝日新聞は2014年に死刑制度の廃止に向けた問題提起を社説に掲載し、各紙もしだいに死刑制度について報じるようになったという。その変化について、井田氏は、死刑囚として、約48年間拘束され釈放された袴田巌さんに対する再審開始決定がきっかけではないかと指摘。「戦後の混乱期のような時代ではないく、現代でも誤判は起きるということを皆痛感した」と述べた。
「読者の方からはいろんな意見がある。『それでも死刑は必要だ』という声もある。ただ、死刑について何も言わないことは、間接的に見えない手で死刑制度を支えていることと同じだ。読者のやりとりを通じて、これからも、死刑について考えていきたい」。