無断で自転車が持ち出されて、お礼のスイカとともに元の場所に戻ってきたーー。こんな珍事に遭遇した人の投稿が、ツイッターで話題になった。
持ち出した人は、自転車に張り紙をして、「自転車を無断で借りてしまい、すみませんでした」と謝罪。スイカ1玉を置いていった。「鍵はつけましょう。盗まれますよ」と皮肉めいた言葉も残していた。
このような場合、単純に自転車を盗まれたというわけでもなく、勝手に使用されて戻って来た、という状態だが、犯罪にはあたらないのか。泉田 健司弁護士に聞いた。
●権利者を追い払って、自分が権利者かのように利用したかどうか
今回のケースは犯罪に当たるのか。
「この話を聞いたとき、『学生の時に勉強したなあ』と思いだしました。多くの刑法の教科書には、『一時使用と不法領得の意思』というタイトルで論点とされているお題です。
窃盗罪と犯罪とならない一時使用の区別をつけるための概念が『不法領得の意思』です。『不法領得の意思』とは、『権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、利用または処分する意思のこと』をいいます。この『不法領得の意思』がない場合には、窃盗罪が成立しません」
「不法領得の意思」がない場合というと、どういったケースが考えられるのか。
「たとえば、友人が席を外しているすきにちょっと消しゴムを借りてすぐ返すような場合には、『権利者を排除して』とまではいえませんから、不法領得の意思がなく、窃盗罪は成立しないということになります」
●自転車の場合も窃盗罪が認められる可能性は高い
ちょっと借りるつもりだったと言い訳すれば、完全に逃げ切れるのか。
「もちろん、そんなわけがありません。対象物の性質、使用時間や持ち出した場所、頻度などから、たとえ、ちょっと借りるつもりだったと言い訳しても、『不法領得の意思』が認められ、窃盗罪が成立するケースがあります。
過去には、元の場所に戻しておくつもりで約4時間余り自動車を乗り回したという事案で、窃盗罪の成立が認められたという事案もあります」
今回のケースでは窃盗罪は成立するのか。
「本件では、無断使用が長時間に及んだり、元あった場所から離れた場所に自転車で移動した場合には、十分窃盗罪が成立する可能性があります。
先の例のように自動車の場合は4時間でも窃盗罪が認められていますが、自転車の場合も、自動車ほどでないにしても、消しゴムの一時使用とは違い、窃盗罪が認められる可能性は高いように思います。なお、お礼のスイカや皮肉の一言は、法律的にはあまり意味のある事実ではありません」
処罰される可能性もあるのか。
「窃盗罪に当たりうるとしても、現実の処罰の内容は、その物事の悪質性が大きく影響します。自転車盗は、繰り返せば、罰金になったり、正式裁判にかけられたりしますが、一回目ではそのようなことはほとんどありません。とくに今回は、現実に自転車が返ってきていますので、罰金になったり正式裁判までにはなりにくいでしょう」
一回借りただけで裁判沙汰とはならなくても、十分罪に問われる可能性はあるということか。
「はい。たとえスイカをもらったとしても、気持ちのいい話ではないのは確かですね。
ところで、藤子・F・不二雄の名作『ドラえもん』に登場するジャイアンは、『いつかえさなかった!?えいきゅうにかりておくだけだぞ』とか『とったんじゃない。かりたんだぞ。いつ返すかきめていないだけだ』との迷言を残していますが、いずれも『不法領得の意思』が認められると非難せざるを得ないでしょう」