
中田 雅久 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
大学時代、薬害や公害で大きな被害が発生して、社会的に注目を集める事件で活躍する弁護士の姿を見て弁護士を志しました。単に、お金を稼ぐ職業というだけでなく、やりがいのある仕事ではないかと感じたからです。また、自分自身、自由であることに価値を感じていますので、自由度が高い職業であることも理由の一つですね。
最初は、困っている人のために働く弁護士というと、社会的関心を集めるような大型事件に被害者側で取り組む弁護士しか想像できませんでした。その後、修習生になり、弁護士になるうちに、有名な大型事件でなくても、小さな事件、すぐ隣の人たちにも、法的サービスが必ずしも行き届かず、困っている人がたくさんいること、働く場としての企業、企業の円滑な活動を守ることの重要性などにも、改めて気付かされて今に至ります。
弁護士のやりがいや自由度についての考え
実際に弁護士になってみて、自分の活動によって結論が変わったり、人の心が動いたと感じる瞬間はやりがいを感じます。
自由度という点では、私は弁護士になって1年目はイソ弁(勤務弁護士)としてボス弁から任された仕事をしていましたが、私のボスは、それ以外に私が個人的にやりたい活動は何でもやっていいという大らかな人でした。
それで、ボスから任された仕事に影響が出ない範囲でやりたい活動を自由にやることができました。極端な例ですが、当時、裁判員裁判制度の導入にあたって、検討のために、裁判所、検察庁、弁護士会が模擬裁判をやっていましたが、私も模擬裁判に弁護人役として参加し、丸3日裁判員裁判の模擬裁判にかかりっきりで、そのあと、研修旅行に行って、1週間丸々事務所にいない、というようなこともありました。
やりたい仕事やスケジュール管理は個人の責任や自覚に任せられているという点は、自由な職業であると思います。そして、自分の興味関心に合わせて自分の活動スタイルを作り上げることができることも、弁護士という職業の魅力だと思います。
法テラスのスタッフ弁護士とは
弁護士になって2~5年目にかけて、法テラスのスタッフ弁護士として浜松の事務所で働いていたのですが、大変良い経験をすることができました。
都市部の法テラスの法律事務所では、原則として民事法律扶助事件と国選の刑事事件だけを扱います。
浜松にいた時には数多くの刑事事件を扱い、3年間で170数件ほど扱いました。東京では、国選として回ってくる事件は、年に数件程度ですし、ここまで刑事事件を集中的に扱うのは、なかなか普通の開業弁護士ではできないことだと思います。
また、浜松にいた当時、日比谷公園で年越し派遣村がありましたが、浜松でもトドムンド浜松派遣村という名前の派遣村がありました。日曜日に福祉事務所を開けてもらい一度に何十人もの人の生活保護の申請をしました。こうした経験は今の活動に結びついています。
お金がない、あるいは障がいを抱えているなどの理由から、自分では弁護士に依頼できない人の事件をやっていく中で、自分の今後の弁護士としての方向性、活動スタイルが見えてきました。
仕事の中で嬉しかったこと
もちろん、結果が出て依頼者に感謝される時などは、うれしく思います。
また、嬉しい、というのとは少し違うかもしれませんが、法廷で実際に証人尋問をしている瞬間、あるいは、冒頭陳述や最終弁論をしている最中は、とても充実感を感じる時間ですね。
法廷での弁護活動、特に刑事事件では、人間の心、裁判官や裁判員の心を動かすことが良い結果に結びつくと考えています。心を動かすために、直接、生の言葉や、言葉を補助する道具を使って、口頭で説得します。もちろん、それにはかなりの準備やリハーサルが必要になります。
また、相手方の弁護士や、検察官の言動に合わせ、臨機応変に行動するといったように、法廷での時間は、真剣勝負の充実感のある時間です。そうした仕事をできるということ自体が、弁護士である自分にとっての喜びであり、うれしいことですね。
自分にとって、民事、刑事を問わず、法廷での真剣勝負というのは、何事にも代え難い、特別な時間です。
弁護士になって大変だと感じること
時間の確保、管理が大変ですね。やりたいことが多すぎて、忙しくて物理的に時間が足りないということがあります。
また、私の扱っている仕事の中には、緊急性が高いものが一定の割合であります。人の一生を左右する事件の場合もありますし、時には徹夜することもあります。
例えば、刑事事件では、今日明日中に釈放されるようにしないと会社をクビになってしまうような場合もありますし、DV被害者の相談では、すぐに逃げる場所を確保しなければ、場合によっては生命に関わることもあります。
あるいは、生活保護の相談を受ける時も切羽詰っている状況が多くあります。今日食べるものがない、2日間何も食べていないという状況で相談を受けたこともありました。
極端な例ではありますが、そうした緊急性の高い相談を受けた時には、特にすぐに機動的に動くための時間の確保という点について大変だと感じます。
仕事をする上で意識していること
サービス業として依頼者とのコミュニケーション、信頼関係を強調する弁護士が多いようで、それはそれで大切なことだと思います。
しかし、私は、やはり、よい結果を得るために、技術を尽くすということにこだわっています。弁護士には法律的な知識や書面作成能力ばかりではなく、法廷での活動にも特別な技術が必要です。どのように証人尋問をするのか、どのように弁論をするのかということが大切だと感じ、こだわりをもって仕事をしています。
また、個々の事件だけではなく、制度全体とか、社会全体の問題にも可能な限り目を向けようと思っています。例えば、最近、大阪で、障がいのある方が被告人となった殺人事件で、「家族が同居を望んでいないため障害に対応できる受け皿が社会になく、再犯の恐れが強く心配される。許される限り長期間、刑務所に収容することが社会秩序の維持に資する」として、検察官の懲役16年の求刑を大きく上回る懲役20年という判決が出ました。
この事件は、弁護技術の側面としては、障がいの特質や行為に与えた影響、社会復帰後の受け入れ態勢などについて、裁判員の方にも分かりやすい主張、そして立証をどのように行うかということを考える必要がありますが、前提として、障害を抱えた人が社会で安心して暮らせる制度が足りなかったり、それに対する偏見といったことが大きな問題であると思います。
関心のある分野
刑事事件、特に裁判員裁判です。私は刑事事件の取り扱いが多いのですが、弁護士になって6年目の現在200件以上の取り扱い経験があります。裁判員裁判の制度をより良くするためにはどうしたらいいかといった観点から、東京地裁立川支部の刑事裁判官、弁護士会多摩支部刑事弁護委員会、東京地検立川支部の検察官で定期的に裁判員裁判のあり方についての検討会、勉強会をやっています。私もそのメンバーですので、より良い制度にするためにはどうしたらいいのかということを考えています。
また、行政や福祉との連携にも関心があります。例えば、障がい者や高齢者の方々は自分の抱えている問題が法律問題だと理解して、自分から弁護士に相談に行くことは難しいですね。相談に行けないことは、そうした方々の自己責任ではなく、そういう人にも必要な法的サービスを提供できるような活動が必要であると思います。
そう考えると、障がい者や高齢者と第一線で関わっていらっしゃるのは行政の福祉の方です。行政の方とうまく連携をとり、法律に関して困ったことがあったら弁護士のところに繋げるという体制を整えることが重要になります。
また、市民の方にとっては、法律事務所はまだまだ遠い存在で、困った人は行政に相談することが多いというのが実情です。弁護士の力だけでは、権利擁護のためにできることには限界があるのです。したがって、最初に相談を受ける行政や福祉から法律問題の解決へ結びつける仕組みが重要だと思います。
多摩の弁護士会でも、いくつもの委員会でそうした取り組みをしています。各委員会の関係する市役所の部署や社会福祉協議会などに赴いたり、懇談会や勉強会をしています。行政の職員の方と日頃から顔が見える付き合いになってくれば、何かあれば気軽に相談してもらえるといったこともあると思います。
今後の弁護士業界の動向
弁護士業界、という村社会の発想で考えること自体が間違っていると思います。弁護士業界、というのは社会と無関係な存在ではありえないわけで、国際化、高齢化、情報化社会の進展、格差の拡大、社会のストレス過多といった影響は、当然受けます。
単に、収益という観点で見た場合、いわゆる町弁スタイルの弁護士であれば、これまで依頼者層としてきた中小企業、一般市民の生活が苦しくなれば、旧弁護士会報酬基準程度の弁護士報酬を支払うことができる方は減って法律扶助が適用される方が増える、取引の規模が小さくなるといった理由で、1件当たりの事件単価が下がり、収益が落ちるのは当然です。
それを弁護士が増えた影響だなどと批判しているのは的外れで、弁護士人口増加のペースが多少落ちても、今の流れは変わりません。町弁スタイルの弁護士が収益を上げたいのであれば、社会、経済全体をよくすることを考えないといけないと思います。
収益という観点から自由になれれば、例えば、社会の変化の中の高齢化だけをとってみても、福祉の事が分かる弁護士、行政と連携を図って市民の権利を守るというマインドを持った弁護士は、まだ少なく、活躍の場はたくさんあるはずです。
障がい者や高齢者に限った話ではなく、子供のいじめの問題で全国各地で痛ましい事件が起こっています。学校や先生が困っていても、対応できていない現実があるのではないでしょうか。そうしたところも弁護士と繋がることによって問題が解決できるのではないかと思います。
正直なところ、そういう事件は大変で儲からないという面がありますが、一生懸命取り組めば法律扶助の限度内ですが、報酬をもらえますし、少なくとも弁護士が弁護士法で法律事務を独占している以上、弁護士がやらなくてはならない仕事だと思います。
「こういう弁護士になりたい!」というビジョンがあれば活躍する場はあると思います。
社会の変化に対応できれば、ビジネスチャンスもあるし、社会の変化で顕在化してきた問題だけではなく、見過ごされてきた問題も多いはずだと思います。