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2017年06月19日 09時44分

文科省「教育現場は生徒の苦痛を軽く考えている」いじめ自殺、どう防ぐか(2)

文科省「教育現場は生徒の苦痛を軽く考えている」いじめ自殺、どう防ぐか(2)
山本悟・生徒指導企画係長

いじめを理由とした子どもの自殺では、学校や教育委員会と遺族の話し合いがうまくいかず、トラブルになるケースが目立つ。教育現場で「いじめ防止対策推進法」の趣旨が理解されていないため、遺族・保護者の不信感を招いているからだ。そんなとき、国として何をすべきなのか。初等中等教育局児童生徒課生徒指導室の山本悟・生徒指導企画係長に話を聞いた。(ライター・渋井哲也)

●いじめを理由に自殺未遂した中学生

ーー私が取材をしているケースで、いじめを理由に自殺をしようと思った中学生がいます。保護者は第三者委員会の設置を望み話し合ったところ、市教委は設置しないというのです。「重大事態だからといって調査委を設置するとは限らない」と言っているといいます。文科省としてはこうした市教委の対応をどう評価しますか?

直接、報告や相談がないと把握しようがないが、そうした事例は少なくとも首長は知っておくべき。調査が終わってから文科省へ報告がある場合もあるが、個別に相談がないと把握できない。

ただし、自殺未遂をしたようなケースでは、第三者委員会を設置するかどうかは別として、学校か、常設のいじめ防止協議会の組織、あるいは第三者の調査委かを選択できる。どう調査をするのかは、学校や市教委は保護者と話し合ってもらいたい。

常設のいじめ防止協議会で調査をする場合もあるが、だからといって市教委の対応がおかしいというわけではない。不十分な対応なら、県教委がサポートすべきだろう。

(「常設のいじめ防止協議会」:いじめ防止対策推進法では、学校などでいじめによる重大事態が起きる前からいじめの防止を目的に設置することになっている)

ーーいじめ防止対策推進法には調査委のあり方について具体的に書き込まれていません

2017年3月、いじめの重大事態の調査に関するガイドラインを発表した。ただ、最初から「調査はこうあるべき」とは決められない。遺族・保護者ともめるところもあるが、ちゃんとやっているところもある。

調査委のメンバーは公平中立であるべきだし、学校や調査委が取るアンケートは、のちに遺族・保護者に開示されなければならない。もちろん、アンケートだけではわからない面もあるため、ヒアリングも行う。調査全体の評価が出ないとわからないが、遺族・保護者が納得する結果になる場合もある。

なぜ、遺族・保護者が納得できない結果になるのか。それは調査委が寄り添っていないからだ。そのため、「ガイドライン」にそって調査をしてほしい。報告書が出る前に、遺族・保護者に対して事前に説明をしているところもある。

青森市立中2年の葛西りまさん(当時13)がいじめを訴えて自殺した問題では、常設の市いじめ防止審議会(教育委員会の付属機関)は、報告書の原案を遺族に見せている。(いじめと自殺の因果関係は「解明できない」という結果であるという)説明をした。議論を尽くしたものだが、遺族が納得できなかった。自殺の原因を「思春期うつ」としたが、その根拠を説明できなかった。結局、市長は委員を差し替えて、再調査することになった。

「ガイドライン」では、遺族・保護者に経過は伝えなさいとなっている。そのため、できるだけ伝えて欲しい。もちろん、事実関係についてわからないところもあるし、確定されないと言えないのは仕方がない。しかし、確定的事実は言ってもいいのではないか。遺族・保護者に対して情報提供はしていくべきだ。

●文科省としてできることは?

ーー取手市のように、学校や教委の対応が悪いことがはっきりしている場合もありますが、そのような場合、文科省としてできることはありますか?

文科省としても、学校対応が悪いと初期の段階でわかることもある。そんなときに、学校がずっと黙っていると遺族・保護者との信頼関係を失う。記録がまちがっているというのは最たるものだ。

学校や教委の対応を変えていくためには、厳正処分につきる。たとえば、不適切な指導として、先生による言葉の暴力がひどく、指導と称していじめを行うこともある。2016年12月、福島県から新潟市に自主避難をした小学生の児童がいじめられたが、同級生だけでなく、教師も「菌」とつけて呼んでいたことは発覚した。

こういう場合は、懲戒処分の標準例を示すことが重要だ。政令市にはこうした教師の不適切な事案の場合、懲戒処分の標準例があるが、このとき、新潟市にはなかった。そのため、他の自治体を参考にして、減給処分となった。

●なぜ「いじめ自殺」は防げないのか?

ーーそもそもいじめ自殺はなぜ防げないのでしょうか?

2011年10月に大津市で起きたいじめ自殺のように、あきらかに生徒がいじめられていたのに、学校と市教委が隠蔽をしていたのは論外。ただ、先生たちの認識では、からかいや悪口で子どもが自殺してしまうことの認識がないのではないか。被害者の苦痛の程度を軽く考えているのではないか。

先生にとっても、自分の学校で起きる確率は少ないので、他人ごと。さらに、いじめ自殺が起きるクラスの担任になる確率はさらに少ない。「わがこと」という意識は高くない。

思春期の子どもはいかに不安定な存在であるか。子どもは成長過程ではちょっとしたことでダメだと思ってしまう。いついじめ自殺が起きるかわからない。

ーー取手市で起きた自殺の場合、学校は「重大事態」として報告していましたが、調査をする前に市教委はわざわざ「重大事態ではない」と決議しました。なぜ、教委の理解不足が起きるのでしょうか?

教委には行政マン(行政の一般職)と教員出身がいる。学校現場をかばっているというわけではないだろうが、首長や教育長のリーダーシップで大きく変わる。それによっては、すべての背景を調べようとなる。遺族に配慮して調査しようとなる。取手市の場合、重大事態ではないと判断しようとした。しかし、普通はわざわざ決議しない。

ーー警察庁によると、2016年の、小学生と中学生、高校生の自殺者は320人。動機・原因(3つまで計上)で多いのは学校問題(35.3%)、家庭問題(23.4%)、健康問題(19.7%)など。「学校問題」の内訳は「学業不振」(34件)、「進路の悩み」(29件)、「入試に関する悩み」(17件)、「学友との不和」(15件)、「いじめ」(6件)となっています。文科省はいじめ自殺をふせぐために何をしてきたのでしょうか。

これまでの取り組みが十分だとは思っていない。2016年も児童生徒が320人(*文科省調査では学校から報告があったのは2015年度は215人)が亡くなっている。その現実は直視している。そのため、パンフレットを作り、研修を行っている。昨年の自殺対策基本法の改正によって、自殺予防の取り組みも初めている。

最近では、夏休みに個別に面接をするように通知した。「自殺対策白書」から、18歳以下の自殺が8月下旬から9月上旬に多いことがわかっている。そのため、面談をして、心配な子どもにはカウンセリングを行うなど、児童生徒の見守りを強化できれば、自殺を減らすことができるのではないか。昨年も実施し、自殺が減った。効果的だったのかはわからないが、今年もやってみようということになった。そして、今年は徹底し、実施率100%を目指す。

(前半〈取手市の女子中学生自殺、文科省が市教委判断の「ちゃぶ台返し」をした理由〉はこちら→ https://www.bengo4.com/other/1145/n_6238/ )

【プロフィール】渋井哲也(しぶい・てつや)栃木県生まれ。長野県の地方紙の記者を経てフリーに。子どもや若者の自殺、少年事件、ネット・コミュニケーションを中心に取材している。東日本大震災後は被災地に出向く。近著は「命を救えなかった 釜石・鵜住居防災センターの悲劇」(第三書館)「絆って言うな」(皓星社)など

(弁護士ドットコムニュース)

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