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取手市の女子中学生自殺、文科省が市教委判断の「ちゃぶ台返し」をした理由(1)
山本悟・生徒指導企画係長

取手市の女子中学生自殺、文科省が市教委判断の「ちゃぶ台返し」をした理由(1)

いじめを苦に自殺した子どもについて、学校側の対応に不備があったと相次いで報じられた。日本では、自殺者の数が年々、減少傾向にあり、2016年の自殺者数は2万1897人、7年連続の減少となった(「平成28年中における自殺の状況」)。しかし、小中高生の自殺の数は横ばい。2016年には、320人の子どもが自ら命を絶っている。

学業不振、健康問題など様々な理由があるとみられるが、警察庁の統計によれば、いじめが理由と考えられる子どもは6人にのぼる。

子どもの自殺が相次ぐ中で、文部科学省として、現場の学校や教育委員会に対してどのように指導をしているのか。初等中等教育局児童生徒課生徒指導室の山本悟・生徒指導企画係長に話を聞いた。(渋井哲也)

●文科省による「指導」がおこなわれた背景

ーー文科省は6月7日、都道府県と政令指定都市の教育委員会の生徒指導の担当者約150人が集まった会議で、いじめを訴えて自殺した生徒をめぐって、仙台市と茨城県取手市の学校や教委の不適切な対応を取り上げました。なぜ、そこで、わざわざ「被害者に寄り添った対応」を求めたのでしょうか?

今年4月、仙台市青葉区の折立中学2年の男子生徒(当時13)がマンションから飛び降り死亡した問題と、2015年に取手市で中学3年生、中島菜保子さん(当時15)が自殺した問題で、実際に不適切な対応があったからだ。

特に取手市教委では、学校がいじめによる自殺の疑いがある「重大事態」としていたのに、市教委で「いじめによる重大事態ではない」と決議している。そして、そのことを遺族に言わなかった。いじめを訴えて亡くなっていたのだから、いじめがあることを前提に調査すべきだ。いじめによって、自殺や自殺未遂、財産への被害、不登校などが生じた場合は「重大事態」として捉え、市区町村教委などの設置者か学校が調査を行う。

ーー文科省は5月30日に直接、取手市教委の担当者を呼び、対応に非がなかったか聞き取り調査をしました。その結果、取手市教委は調査の見直しの検討をすることになりました。翌31日、市教委は両親に謝罪しました。文科省が担当者を呼び、指導をするようなことは異例なのでしょうか?

異例だ。5月22日には仙台市長と市教育長を文科省に呼び、義家弘介副大臣が指導もした。取手市教委は生徒が自殺したことに向き合ってない。真相がわからない段階では否定も肯定でもできないが、いじめによる自殺の疑いがあるのなら、いじめの重大事態と捉える必要がある。学校や市教委が不適切な対応をするときは文科省として見逃せない。

●仙台で相次ぐ自殺

ーー今年4月の仙台市で男子生徒が自殺しました。いじめとの関連が言われていいます。仙台市は、2年7か月で3回、いじめ自殺が起きています。これまで文科省はどのように指導してきたのでしょうか?

14年9月には泉区館中の男子生徒(当時12)が、16年2月には仙台市泉区南中山中の男子生徒(当時14)が自殺した。2人目のときから、自殺の背景調査をしっかりするように指導してきた。

いじめ防止対策推進法での調査もあるが、文科省では「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」を作っている。何のための調査なのかを理解してほしい。それは真相解明と再発防止にある。どこに原因があるのかを浮き彫りにしないといけない。結果論からすれば、仙台市教委の取り組みは十分ではなかった。

ーー仙台市は東日本大震災の被災地です。今年4月に亡くなった男性生徒は、震災当時、小学生でした。当時、生徒が通っていた小学校は地滑りがあり、自校舎での授業が難しく、中学校に間借りをし、授業をしていました。内陸部ですが、津波被災地とは違ったストレスがあったと想像します。災害時の子どものケアは十分だったのかどうかも含めて検証すべきではないでしょうか?

何が要因なのかはまだわかっていない。今のところ、震災の影響は聞いていない。そこを含めて検証すべきだろう。

●「教育長は不十分な理解だった。あり得ない」

ーー2011年8月に、東京電力福島第一原発の事故による避難で横浜市内へ転校した男子生徒がいじめを受けました。小学校2年生から名前に「菌」をつけられたり、暴力的ないじめがありました。その中でも、ゲームセンター代などで総額150万円以上も持ち出すことで、いじめから逃れていました。第三者委員会は全体としてはいじめは認めつつも、150万円余の金銭授受については「非行・ぐ犯行為(少年法でいう不良行為)」として、いじめとは認めませんでした。

いじめ防止対策推進法では「いじめ」の定義を幅広く取っている。法律を理解しないといけない。(いじめと認めないのは)教育長の理解が不十分だった。庇う気はないし、あり得ない。トップにいる方の責任は重い。昔の感覚、あるいは、社会一般のイメージでいじめをとらえているのではないか。06年度以降、許せない範囲は変わってきている(文末参照)。

苦痛を感じている子どもの側に立つことが大切だ。横浜市教委の第三者委員会では、150万円余の金銭授受を子ども同士の金銭トラブルであって、いじめとは認識していなかった。そんなことは通用しない。

もちろん、こんな調査ばかりではない。(報告書では出来事を一つ一つあげて、それぞれがいじめにあたるのかと個別に判断する場合もあるが)一つのエピソードを全体のいじめの中でとらえるところもある。いじめの定義、調査のあり方については今後も周知徹底する。

(*1986年度からの定義:いじめとは、1)自分より弱い者に対して一方的に、2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、3)相手が深刻な苦痛を感じているものであって、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない)

(*1994年度からの定義:いじめとは、1)自分より弱い者に対して一方的に、2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、3)相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと)

(*2006年度からの定義:個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。いじめとは、当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない)

(*いじめ防止対策推進法による定義:いじめとは、児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍する当該児童生徒と一定の人間関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為〈インターネットを通じて行われるものを含む。〉であって、当該行為の対象になった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。行った場所は学校の内外を問わない)

(続く)

【プロフィール】

渋井哲也(しぶい・てつや)

栃木県生まれ。長野県の地方紙の記者を経てフリーに。子どもや若者の自殺、少年事件、ネット・コミュニケーションを中心に取材している。東日本大震災後は被災地に出向く。近著は「命を救えなかった 釜石・鵜住居防災センターの悲劇」(第三書館)「絆って言うな」(皓星社)など。

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