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東京証券取引所vs証券会社 賠償責任めぐり対立深まる…元金融庁職員の弁護士が解説
東証(kpw / PIXTA)

東京証券取引所vs証券会社 賠償責任めぐり対立深まる…元金融庁職員の弁護士が解説

東京証券取引所でシステム障害があり、売買が成立しなかった取引について、東証と証券各社が賠償責任をめぐって対立していると報じられている。

システム障害は10月9日に発生。取引所に取り次げなかった顧客の注文を各社が受け付け、各社は顧客に自らの責任で株式や現金を渡す必要があり、「損失を被るのは確実だ」という。また、関係筋の話として、「メリルリンチ日本証券が通信状況を確認するため毎朝送るデータを通常の1000倍以上の量で誤送信したことが要因となった」とも伝えられている。

不具合が発生したのは、東証の株式売買システムと証券会社をつなぐ4ルートのうち1ルート。東証では証券各社に対し、不具合に備えて複数と接続するよう要請していたことを強調。その上で、東証は、自らの賠償責任を否定しているという。

システム障害の影響を受けた証券会社の数は「40社弱」で、成立しなかった顧客の売買注文は「10万件を超える」ことが時事通信(10月18日)などにより報じられた。賠償責任はどのように考えられるだろうか。大和弘幸弁護士に聞いた。

●東証の「重過失」認定は難しい

ーー東証が負う責任はどのようなものが考えられるでしょうか

「東証と各証券会社は取引参加者契約を締結しています。東証は、証券取引市場の開設者として、証券会社が入力した注文につき適切に対応することができるコンピュータ・システムを提供する義務を負っていると一般的にはいえます。東証は現在arrowheadという売買システムを提供しています。

他方で、東証の取引参加者規程には、証券会社が東証の施設利用に関して損害を受けても、東証に故意・重過失がない限り東証は免責されるとの規定があります。

今回のシステム障害で、東証に重過失があったか否かが問題となりますが、報道によれば、証券会社の発注システムと東証の取引サーバをつなぐ4つの経路の1つに障害が発生したが、他の経路による発注は可能であったとのことですが、この報道が事実であるとしたら、東証の重過失を認定するのは難しいように思います」

ーーでは、証券会社が負う責任についてはいかがですか

「東証の業務規程によれば、証券会社は、自社の端末装置と東証の売買システムの接続について、接続仕様その他東証の定める事項を遵守しなければなりません。また、東証の売買システムが安定的に稼働するよう協力する義務があります。

報道によれば、東証は従来から、各証券会社に対し、4つの経路のうち2つ以上の経路で注文を出すよう要請していたとのことですが、この報道が事実であるとしたら、2経路以上を確保していなかった証券会社側にも落ち度はあるように思います」

●利用する証券会社に落ち度がなければ、顧客の損害賠償請求は困難

ーーメリルリンチが不具合の原因を作ったとしたら、責任はどう考えられますか

「システム障害が、メリルリンチの行為による場合、仮に東証に金銭的な損害が生じたとしたら、賠償義務が発生する可能性はあり得ます。

東証の規則によれば、証券会社は、大量の誤発注を制限する等注文管理体制を講ずる義務がありますが、報道によれば、通信状況確認のためとはいえ、大量のデータを誤送信したことが要因とされているので、取引参加者契約の債務不履行があったと認められる余地があるでしょう。

また、システム障害により、他の証券会社に金銭的な損害が生じたとしたら、メリルリンチに不法行為責任が生ずる可能性もあり得るでしょう」

ーー仮に、今回の不具合で損失を被ったと顧客が主張する場合、どのような請求をすることが考えられるでしょうか

「顧客は、利用している証券会社との間で、有価証券の売買取引に関する一連の契約を締結しており、証券取引約款により契約関係が規定されます。この約款には、通常、免責条項が設けられていて、例えば、当社の責めに帰するものを除き、取引所または情報を伝達機器もしくは機関における不具合による損害については証券会社は免責されるなどと規定されています。

利用している証券会社に落ち度がない限り、顧客が損害賠償を請求をすることは困難でしょう。他方、メリルリンチがシステム障害の原因だった場合、メリルリンチに対して不法行為責任を問える可能性はあるでしょう。その場合、『メリルリンチの行為がなかったら損害は生じていなかった』という因果関係の立証ができるか否かが問題となると思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

大和 弘幸
大和 弘幸(やまと ひろゆき)弁護士 やまと法律会計事務所
法律問題のみならず、公認会計士とタッグを組み、会計及び税務全般にわたっても適切なアドバイスを提供してまいります。

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