アメリカのトランプ大統領とトランプ政権の裏事情を暴露する書籍「FEAR:Trump in the White House」(ボブ・ウッドワード著)が世界的な話題になっています。
日本でもツイッターなどで、「翻訳本 早よ!」「日本語訳がはやく出版されないかなぁ」など待望の声がたくさんあがっています。
実際のところ、日本経済新聞出版社から、邦題「恐怖の男――トランプ政権の真実」で12月中旬に発売されることが決まっているのですが、まだ2カ月以上も先の話です。
もし原書を勝手に翻訳して、日本語版を出版した場合、法的な問題はあるのでしょうか。佐藤孝丞弁護士に聞きました。
●翻訳権や複製権の侵害などが考えられる
「まずは翻訳権の侵害が考えられます。
著作者であるボブ・ウッドワードさんには、本件書籍の原書を翻訳する権利があります(著作権法27条)。したがって、本件原書を勝手に翻訳して出版することは、翻訳権を侵害することになります。
なお、本件原書は、今年の9月発行ですので、いわゆる翻訳権10年留保制度や強制許諾制度の適用がありません。また、本件出版行為は、私的目的の複製等といった権利制限規定(同法43条各号)にも該当しないと思われるので、翻訳権侵害を否定するのは難しいでしょう」
他にはどのような権利侵害が考えられるのでしょうか。
「複製権等の侵害ですね。
著作者は、翻訳本(二次的著作物)についても、その翻訳本の著作者と同一の種類の権利を有します(同法28条)。この結果、翻訳本の著作者の権利は、原書の著作者の合意によらなければ行使することができないとされています。ですから、今回想定しているような勝手な翻訳本の出版行為は、原書の著作者の複製権等も侵害していることになります。
さらに、公式の日本語版側の権利を侵害する可能性があります。
今回の原書の著作者(ボブ・ウッドワードさん)が日本経済新聞出版社に対していかなる権利を設定しているのかは不明ですが、本件出版行為(非公式)の態様によっては、損害賠償責任を負うことがあり得ます」