交際中に撮影した性的な画像や動画が、別れた後にネットにさらされる──。いわゆる「リベンジポルノ」をめぐる事件が後を絶たない。
茨城新聞によると、元交際相手の女性の顔や性的な部位が写った画像をSNSに公開したとして、水戸市の男性が9月中旬、私事性的画像被害防止法違反の疑いで茨城県警に逮捕された。
RSK山陽放送によると、ストーカー相手のわいせつな画像を不特定多数の人に提供したとして、倉敷市の男性が岡山県警に逮捕されている。
「リベンジポルノ防止法」とも呼ばれる同法が施行されてから、まもなく12年。警察庁によると、2025年には2514件の相談が寄せられ、65件が検挙されたという。
一度でもネット上に流出した画像や動画は、拡散が止まらないこともある。さらに今では、生成AIによって「撮影すらされていない性的画像」を作り出すことも可能になった。
もし被害に遭ったら、どうすればいいのか。そして12年前につくられた法律は、AI時代の被害に対応できるのか。リベンジポルノ問題にくわしい森伸恵弁護士に聞いた。
●まず削除? 実は「証拠を残す」が先
──リベンジポルノがSNSや掲示板などに投稿され、拡散してしまった場合、被害者はどのような対応を取ることができるのでしょうか。
取るべき対応は、大きく(1)証拠の保全、(2)削除、(3)発信者の特定、(4)刑事・民事の手続きです。
まず重要なのが証拠を残すことです。
画像・動画だけでなく、URLや日時、サイト名、相手とのやり取りなどをスクリーンショットで保存します。投稿が削除されると証拠が失われることがあるため、削除を求める前に証拠を保全しておくことが非常に重要です。
そのうえで、掲載先の管理者やSNS事業者に削除を求めます。リベンジポルノ防止法4条に基づく「送信防止措置の申出」という手続きがあり、被害者からの申出を受けた事業者が発信者に照会し、2日を経過すれば、一定の要件のもとで投稿を削除できます。
実務上は、投稿者本人に警告し、削除を求めることもあります。
また、2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法は、大手プラットフォームに被害申告窓口の設置などを義務づけました。
投稿者が誰かわからない場合には、発信者情報開示請求によって、氏名や住所などを特定できることがあります。
刑事事件では、リベンジポルノ罪として3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。ただし、親告罪のため、告訴できるのは犯人を知った日から6カ月以内です。公訴時効も3年なので、早めの相談が重要です。
民事では、プライバシー権や肖像権、人格権などの侵害を理由として、慰謝料を求めることができます。慰謝料の相場はおおむね50万〜300万円程度です。
●消しても、また現れる「完全削除」の難しさ
──いったんネット上に拡散した画像・動画を完全に削除することはできるのでしょうか。
完全に削除することが難しいケースもあります。
元の投稿が削除されても、投稿者が再びアップロードしたり、すでに保存していた第三者が転載したりして、拡散が繰り返されることがあるからです。
さらに、発信者の特定には時間がかかります。その間に投稿が消えてしまうと、逆に投稿者を特定できなくなるおそれもあります。
削除や、発信者を特定するために必要なIPアドレスの開示に応じない事業者があることも問題です。
つまり、「投稿を一つ消せば終わり」とはいかないのが、ネット上の性的画像被害の難しいところです。
●「撮影OK」は「公開OK」ではない
──そもそもリベンジポルノの被害に遭わないために、どのような点に注意すべきでしょうか。
基本は「撮らない・撮らせない・送らない」です。
ただ、ここで重要なのが、撮影に同意したからといって、ネット上への公開や第三者への提供まで同意したことにはならないという点です。 実際に撮影する場合には、顔や個人を特定できる情報を一緒に写さないことも大切です。背景やタトゥー、室内の様子、身につけている物などから本人が特定されることもあります。
また、撮影を求められた経緯を記録に残す、共有アルバムや自動バックアップの設定を確認する、削除する際は端末だけでなくクラウド上からも消えているか確認するといった対策も考えられます。
盗撮にも注意が必要です。不自然な物の配置や覚えのない映像などに気づいた場合には、安全を確保したうえで対応してください。
そして、万一拡散されてしまったら、一人で抱え込まず、速やかに警察や支援団体、弁護士に相談してください。告訴には期間制限があり、発信者を特定するための情報も時間とともに失われていきます。
●「撮影されていない性的画像」をAIがつくる時代に
──リベンジポルノ防止法の施行から10年以上が経過しました。一方で、生成AIによる性的な偽画像・動画など、当時は十分に想定されていなかった問題も生じています。現在の法制度には、どのような課題がありますか。
大きな課題の一つが、生成AIによる性的な偽画像・動画への対応です。
リベンジポルノ防止法の「私事性的画像記録」は、「撮影された」画像を前提としています。そのため、AIで一から生成された性的画像やCGは対象外です。顔と裸体を合成した画像についても、その人の性的な姿態を「撮影した」ものではありません。
もちろん、内容によっては名誉毀損罪など別の法律が問題になる可能性はあります。しかし、名誉毀損罪は事実の摘示が必要であり、わいせつ物頒布等罪も画像にされた本人を被害者として保護するための罪ではありません。児童ポルノについても、被写体が実在する児童であることが前提です。
2025年に成立したAI推進法の附帯決議では、ディープフェイクポルノへの厳正な取り締まりや被害者保護が政府に求められました。しかし、AIによる性的画像の作成や提供そのものを直接規制する制度には至っていません。
もう一つの課題は、「法律があること」と「実際に画像を消せること」の間に距離があることです。
プラットフォームによる削除判断は依然として事業者に委ねられている部分が大きく、発信者情報開示についても、一部の事業者との関係では十分に機能しないことがあります。
また、リベンジポルノ罪は親告罪で、告訴期間は原則6カ月、公訴時効は3年です。ネット上で長期間にわたって画像が拡散され続ける被害の実態と、こうした時間的な制約が噛み合っているのかも検討する必要があります。
刑の重さにも違いがあります。盗撮された画像を不特定多数に提供した場合は、性的姿態撮影等処罰法によって5年以下の拘禁刑などが科される可能性がある一方、合意のうえで撮影された画像を無断で拡散した場合のリベンジポルノ罪は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
AI生成・加工による性的画像への対応、親告罪や時効・法定刑のあり方、削除手続きの迅速化、発信者情報開示の実効性確保など、検討すべき課題は少なくありません。
「撮影された画像」を前提につくられた制度のままで、AI時代の被害にどこまで対応できるのか。法制度そのものを改めて検討する時期に来ていると思います。