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「選択的夫婦別姓」求めサイボウズ社長が提訴…2年前に「同姓合憲」判決、今回は戸籍法で勝負
選択的夫婦別姓を求める提訴をしたサイボウズ社長の青野慶久氏(左)と代理人の作花知志弁護士

「選択的夫婦別姓」求めサイボウズ社長が提訴…2年前に「同姓合憲」判決、今回は戸籍法で勝負

ソフトウェア企業「サイボウズ」の社長、青野慶久氏ら4人が1月9日、日本人同士の結婚で、夫婦別姓を選択できないことは憲法違反だとして、国に1人あたり55万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。

提訴後に行われた記者会見で、青野氏は2001年に結婚、妻の名字に変更して旧姓使用をしているが、会社経営者として不都合が多く、「経済合理性からみても、損失になる」と指摘した。

夫婦の名字については、民法750条で夫婦の別姓を認めず、同姓にすることを義務付けており、結婚に際して95%の女性が夫側の名字に変更している。そこで、「夫婦同姓」は女性差別にあたり、憲法違反だと訴える裁判が起こされたが、最高裁は2015年12月、「同姓は合憲」だとする判決を下した。

最高裁判決から2年。今回の訴訟は、別の観点から起こされた。原告代理人の作花知志弁護士が新たに着目したのが、前回争われた民法ではなく、戸籍法の問題だ。日本人同士では認められていない別姓の選択が、実は日本人と外国人の結婚では認められており、法の下の平等を定めた憲法14条などに違反すると訴えている。

●作花弁護士「別姓は日本人夫婦にだけ認められてない」

今回の訴訟のきっかけとなったのは、2015年の最高裁判決だった。最高裁が夫婦同姓を合憲とした同日、女性の再婚期間規定を違憲とする初判断も出された。その原告代理人を務めていたのが、作花弁護士だ。作花弁護士自身は「勝訴」だったが、同じ会場で会見をして涙を流している夫婦別姓訴訟の原告たちの姿が心に残ったという。

しかし、最高裁判決が一度出てしまえば、短期間に判例を覆すことは難しい。しかし、作花弁護士の元には夫婦別姓訴訟を起こしたいという人も相談に訪れ、違う切り口がないか調べていたところ、思いついたのが戸籍法の問題だった。日本人同士の結婚・離婚、日本人と外国人の結婚・離婚をそれぞれ比較した場合、「日本人同士の結婚」にだけ、戸籍法のケアがないという。

戸籍法上、日本人と外国人が結婚する場合には、別姓にすることができる。また、日本人同士の夫婦の離婚の場合、旧姓に戻すことが義務付けられているが、届け出れば離婚時の姓を称することができる。日本人と外国人夫婦の場合も同様だ。しかし、日本人同士の結婚については、このような戸籍法のケアがなく、夫婦どちらかの姓に合わせなければならない。作花弁護士によると、ここに、法の下の平等に違反する問題があるという。

「最高裁判決による夫婦別姓にできないという問題は、人々を苦しめているとあらためてこの2年間で感じました。ぜひもう一度、戸籍法の観点からチャレンジして、今度こそ最高裁で夫婦別姓を認める判決を目指したい」と語った。

●青野氏「妻の名字に変えたら、株式の名義変更に81万円」

一方、青野氏も2001年に結婚して妻の名字となったが、さまざまな不都合やストレスを感じていたという。

「結婚する際、妻が名字を変えたくないと申しまして、あまり後先考えずに僕が改姓しました。改姓すると、銀行口座、証券口座、免許証、パスポート、健康保険など全部を変えないといませんでした」

その後、旧姓使用にストレスを感じながら過ごしていたところ、2015年の最高裁判決のニュースに「大変、がっかりした」と話す。そうした中、作花弁護士と知り合い、原告に加わることになった。婚姻した男性が夫婦別姓を求める訴訟を起こすのは初めて。

「2年前の合憲判決が悔しくて、色々と過去の活動を調べました。どうしても女性の方が表に出るので、フェミニズム的な活動だととらえられる側面があった。でも、今回は私が表に出ることで、(女性の権利という面だけでなく)経済的合理性からみても、損失になると訴えたい」と語る。

●旧姓作成された契約書や公文書はどこまで適法か?

また、作花弁護士は旧姓使用で生じる社会的不安定も指摘する。

「2015年の最高裁判決では『通称が広まってるので、不利益は緩和されている』ということだったが、戸籍法の観点からすれば、旧姓を通称として利用するということは、法律上根拠のない名前を使っているということになります。

例えば、青野さんはサイボウズ代表として色々な契約を結びます。通常、契約では代表取締役誰々と、名前がないと法人の契約として有効とされない。青野さんが通称名でサイボウズの契約をした際、戸籍法上で有効ではないとされてしまう場合と、通称名で契約できる場合と、明確にどう区別できるのか。とても難しく、複雑な問題が生じます。

それから、去年9月から公務員も旧姓で通達や文書を作成できるようになったが、旧姓で公文書が作成され、ある人にとってそれが不利益だった場合、これは根拠のない名前で作られた文書なのだから違法なんだという主張がされたら、本当に適法になるのだろうかという問題があります。昔の裁判例ですが、検察官が認められてない印鑑を使用したため、控訴が無効になったということもありました。

人に影響を与える文書は、誰が作成したかが大事で、その正当性が担保されます。日本人同士の結婚で、氏を変えて旧姓で仕事をしている人だけ、社会の中で不安定な立場にある。それはとてもアンバランスだと思います。そのため、戸籍上の氏を社会生活上、使いたい日本人に、4分の1だけ適法にしない合理的な理由はない。なぜ適法にしないのか、国は合理的な説明をしなければなりません」

最高裁では同日、史上6人目となる女性の最高裁判事として宮崎裕子氏が就任した。宮崎氏は初めて最高裁で旧姓を名乗る判事だ。青野氏が行なっているネット署名運動でも賛同者がすでに1万7000人を超えており、選択的夫婦別姓を求める世論を追い風に、法改正を目指す。

追記:取材時にあった株式名義変更に関する情報が訂正されたため、当該部分を削除いたしました。(2022年6月15日)

(弁護士ドットコムニュース)

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