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40歳未満、死因の1位は「自殺」の衝撃…国の自殺対策はどうなっているのか(1)
検討会の「報告書」

40歳未満、死因の1位は「自殺」の衝撃…国の自殺対策はどうなっているのか(1)

15歳から39歳までの各年代の死因の順位で、自殺が1位。厚生労働省が5月30日に公表した「自殺対策白書」(2017年版)の内容は、社会に衝撃を与えた。しかし国も手をこまねいているわけではない。

白書の発表に先立ち、5月15日には「新しい自殺総合対策大綱のあり方に関する検討会」(座長、本橋豊・自殺総合対策推進センター長)が、今後の「自殺総合対策大綱」の見直しについて話し合った「報告書」をまとめた。この大綱は、自殺対策基本法に基づき、政府が推進すべき自殺対策の指針を定める重要なものだ。

報告書は、地域の実情に応じた細かな施策をすることのほか、若者(40歳未満)を対象にした自殺対策も重視。さらに、自殺率を先進諸国水準まで削減する目標を設定している。「自殺総合対策大綱」が見直される方向性を検討した「報告書」のポイントについて厚生労働省自殺対策推進室に話を聞いた。(渋井哲也)

●検討会の報告書では

自殺対策の指針となる「自殺総合大綱」は5年ごとに見直しをすることになっている。次回は17年8月がめどだ。今回の「検討会」の報告書では、〈自殺対策は大きく前進したものの、非常事態は未だに続いて〉いるとの認識を示した。

そのために、地域の対策を支援する「自殺総合対策推進センター」(国立精神・神経医療センター内)が、地域ごとに自殺傾向を分析した「自殺実態プロファイル」と、そのための「政策パッケージ」を作成し、市町村に活用してもらう。「効果を見ながら政策をアップデートしていく」(自殺対策推進室担当者)。

個別施策としては。なかなか減少しない若者の自殺対策が重要視されている。そのため、学校での「SOSの出し方教育」が盛り込まれた(次回の記事で詳しく)。さらにはスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、学校医の取り組みを進めるともされた。

文科省でも09年に「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」に関するマニュアルを作成している。しかし、検討会の議論では「マニュアルが実際に活用されているのか疑問」という声も出ていた。文科省の担当課では「手引きは周知をしているつもり。活用されていないケースは問題だ」と発言した。

一方、若者の自殺の要因には、「職場の人間関係」や「仕事疲れ」などの「勤務問題」も大きい。警察庁によると、昨年の「勤務問題」を理由にした自殺者は1978人、このうち40歳未満は866人。ピーク時からみれば減少しているものの、減少幅が少ない。そのため、働き方改革実現本部での、長時間労働の見直し、パワーハラスメント対策、メンタルヘルス対策などと連動させる。

職場のメンタルヘルス対策については、「従業員が50人以下の小規模事業所は、ストレスチェック以前の問題がある」「ストレスチェックは年1回しかしてない」「長時間労働という量的負荷だけでなく、人間関係の質的負荷もある」「職場のメンタルヘルスは、単に業績向上のためではない点が必要」などの議論を踏まえた。

●自殺死亡率「30%削減を」

「報告書」では、削減目標を新たに提示した。自殺死亡率(10万人あたりの自殺者数)を先進国並みとするために、さらに30%削減することとしている。これまでの大綱では、05年の自殺死亡率24.2を10年間で20%以上削減させることにしていた。15年の自殺死亡率は18.5となり、削減幅は23.6%で目標を達成した。

しかし、G7では日本がもっとも高い。他の先進国では、フランスでは15.1、アメリカでは13.4、ドイツでは12.6、カナダでは11.3、イギリスでは7.5、イタリアでは7.2だ。そのため、15年の数値から30%削減すると、他の先進諸国並みの、13.0以下となる。

日本の自殺はなぜ高水準なのか。その明確な答えはない。「うつ病対策中心の自殺対策をしている時期もありました。しかし、自殺は様々な要因が重なり合ってきることがわかっています」(担当者)。つまり、医療だけでない社会的取り組みの必要性が指摘されている。

●日本の「自殺対策」の歩み

警察庁の統計では、バブル崩壊を迎えた1998年以降、年間自殺者は14年連続で3万人を超えていた。しかし、2003年の3万4427人をピークに減少傾向に。2012年以後は3万人を下回り、2016年は2万1897人だった。減少した背景には、経済的な要因もあるが、自殺対策の社会的な取り組みへの関心が高まったこともある。

自殺対策基本法は2006年、議員立法で成立した。自殺が「個人的な問題」から「社会的な問題」へと認識が改められた。同基本法では、より具体的な指針となる「自殺総合対策大綱」が作られている。おおむね5年ごとの見直しがされる。

2007年につくられた大綱では、〈自殺は追い込まれた末の死〉〈自殺は防ぐことができる〉〈自殺を考えている人は悩みを抱えながらもサインを発している〉という基本的な認識を示した。その上で、青少年(30歳未満)、中高年(30歳〜64歳)、高齢者(65歳以上)に分けて、各年代の自殺の特徴と取り組むべき自殺対策の方向を示していた。近年は、特に中高年男性の自殺者は減少幅が大きい。

2012年に改定された大綱では、精神科医療体制の充実を検討のほか、適切な薬物療法の普及、認知行動療法の普及、救急医療施設での自殺未遂者への対策、さらには若者対策、自殺未遂者支援、性的少数者、いわゆるLGBTへの施策も盛り込まれた。

同基本法は2016年に改正、施行された。市町村で自殺対策の計画策定を義務付けた。また、内閣府の業務見直しに伴い、これまで内閣府が主導してきた自殺対策は、厚生労働省に移管された。厚生労働大臣を本部長として、省庁横断的な「自殺対策推進本部」が設置された。

「自殺対策の担当は、厚生労働省内の部局が多く、現場も持っている。その分、担当者間のコミュニケーションが取りやすくなった利点がある」(担当者)。

今回の報告書と、5年間の国会での議論も踏まえた上で、8月をめどに新しい自殺総合対策大綱が作られる。正式なものができるまでに、自殺対策推進室では近々、パブリックコメントを求めることになっている。

【プロフィール】

渋井哲也(しぶい・てつや)

栃木県生まれ。長野県の地方紙の記者を経てフリーに。子どもや若者の自殺、少年事件、ネット・コミュニケーションを中心に取材している。東日本大震災後は被災地に出向く。近著は「命を救えなかった 釜石・鵜住居防災センターの悲劇」(第三書館)「絆って言うな」(皓星社)など。

(弁護士ドットコムニュース)

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