2019年03月26日 09時39分

「国語の教師は『一太郎』が使えて当たり前」こんな発言はパワハラにあたるか?

「国語の教師は『一太郎』が使えて当たり前」こんな発言はパワハラにあたるか?
画像はイメージです

日本語ワープロソフト「一太郎」にまつわる職場トラブルを紹介する投稿が、このほどツイッター上で話題になった。この投稿は、次のような、若手教員のやりきれない声を伝えている。

「職場の50代以上の先生は全員一太郎しか使えません。私が送ったデータがWordだとすごく迷惑そうに『国語の教師は一太郎が使えて当たり前』『私は国語の教師だから一太郎しか使いませんよ』などと言ってきます」

ワープロソフトといえば、マイクロソフト社の「Word」(ワード)に馴染みのある人が多いかもしれないが、ジャストシステム社の「一太郎」は、役所などで少なからず利用されている。バージョンによっては、互換性もあるが、その機能をうまく使いこなせない人もいる。

元の投稿からは、上司・先輩にあたる人物から、「一太郎」の使用を暗に強いられているようすがうかがえる。「一太郎ハラスメント」とまで名付けられているが、法的にはどう考えればいいのだろうか。労働問題にくわしい大久保修一弁護士に聞いた。

●会社にはハラスメント防止義務がある

「ハラスメントを行った者は、民事上の損害賠償責任を負う可能性があるだけでなく、脅迫罪や強要罪、名誉棄損罪、侮辱などの刑事罰を受ける可能性もあります。

そして、ハラスメントにあたる行為が、業務(仕事)と関連するものであると判断される場合には、使用者(会社)も損害賠償責任を負うことがあります。

業務中の言動が適法な業務上の指示や指導なのか、それとも違法なパワハラに当たるのかは、見極めが難しいケースも多いところです。

この『適法な業務上の指示や指導なのか、違法なパワハラなのか』について、裁判例では、人格否定や名誉棄損となる言動があるかどうか、退職や処分等を示唆する言動があるかどうか、指示や指導の必要性があるかどうか、受け手の立場や能力、指示や指導の状況や他の人との公平性などを総合的に考慮したうえで、社会的に相当かどうかという観点で判断されています。

また、使用者は、労働者に対して、働きやすい良好な職場環境を維持する義務(ハラスメント防止義務)を負うものとされています。

ハラスメント被害の予防に向けた十分な措置を講じるなどの適切な対応をしていなかった場合、ハラスメント防止義務違反による損害賠償責任を負うこともあります」

●職場のパワハラを構成する3つの要素

「ただ、日本では、職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)について、その定義や禁止される行動を明確に定めた法律は、今のところ作られていません。

一方で、都道府県労働局における職場の『いじめ・嫌がらせ』の相談件数も年々増加するなどして、職場のパワハラが大きな問題となっていることから、厚労省で、職場のパワハラの定義や実効性のある職場のパワハラ防止対策についての検討会が開かれ、2018年3月に報告書がまとめられました。(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000201255.html)。

この報告書によれば、職場のパワハラは、次の3つの要素で構成されるものとされています。

(1)優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること (2)業務の適正な範囲を超えて行われること (3)身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は就業環境を害すること

今回のツイートについてみると、文書作成ソフトについて、マイクロソフト社のワードとジャストシステム社の一太郎を利用している同僚が、それぞれ一定程度いる職場であると推測されます。

実際に一太郎を利用している同僚が、ワードではなく、一太郎によるデータの提供を求める行為自体は、みずからの業務を遂行するうえで必要な対応を求めるものと考えられます。『業務上、明らかに必要性のない行為』とは評価されない可能性があり、ただちに違法なパワハラにあたるとはいえないと思われます」

●「国語の教師は一太郎が使えて当たり前」はパワハラにあたる可能性も

「一方、『国語の教師は一太郎が使えて当たり前』などという発言は、経験が自らより少ないであろう受け手に対する配慮を欠く発言であり、状況やその言い方によっては、受け手に精神的な苦痛を与え、または就業環境を害するパワハラにあたるものと評価される可能性があると思われます。

このような言動が繰り返されることのないよう、発言者本人は自覚する必要がありますし、使用者も注意指導をするべきだと考えます。

そもそも、この職場では、どの文書作成ソフトを利用するかが、個々の判断に委ねられており、その利用者も年齢層によって分かれていることが問題となっているようにも思われます。

職場内でのトラブルを漫然と放置して、ハラスメント問題に発展した場合、使用者が、ハラスメント防止義務に違反したものとして、その責任を負う可能性もあります。

使用者は、実態を把握したうえで、職場内でどの文書作成ソフトを利用するか、利用するソフトを統一する場合に、どのような研修指導を実施するのかなどの対策を講じることが望ましいでしょう。

厚労省の報告書でも繰り返し言及されていますが、職場のパワーハラスメントは、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であり、職場環境を悪化させるものです。こうした問題を放置すれば、人は仕事への意欲や自身を失い、時には心身の健康や命すら危険にさらされる場合もある重大な問題です。

みんなが職場のパワハラを予防するための対策に真剣に取り組むこと、そして、パワハラを規制する立法が速やかに実現することが必要だと考えます」

(弁護士ドットコムニュース)

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大久保 修一弁護士
2014年弁護士登録(第二東京弁護士会)。旬報法律事務所所属(弁護士27名)。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長。日本労働弁護団東京支部事務局。著書に「まんがでゼロからわかる ブラック企業とのたたかい方」(共著佐々木亮、まんが重松延寿、旬報社)がある。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/
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