弁護士ドットコム - 無料法律相談や弁護士、法律事務所の検索

2018年08月31日 10時09分

省庁の障害者雇用水増し、本質は「働き方」の見直し…多様性を重視する組織を作れるか

省庁の障害者雇用水増し、本質は「働き方」の見直し…多様性を重視する組織を作れるか
霞が関の官庁街(Ryuji / PIXTA)

中央省庁が障害者雇用数を水増ししていたことが大きな問題になっている。

厚労省が8月28日に公表した調査結果によると、国の33行政機関のうち、約8割にあたる27機関で計3460人の不適切な算入があった。

その結果、33機関のうち、法定雇用率(2.3%)を満たしていなかったのは1機関だけだったが、今回の調査結果により、27機関となった。平均雇用率は2.49%から1.19%に半減した。水増し数が最も多かったのは、国税庁で1022.5人。次いで、国土交通省の603.5人、法務省の539.5人だった。

毎日新聞の報道によると、死者を算入したり、強度近視の職員を算入したり、健常者の管理職を含めるよう指示したりしたケースもあったという。

なぜ制度の運用を担う行政機関でこのような問題が起きたのか。障害者問題に詳しい浦崎寛泰弁護士に聞いた。

●第三者による厳格なチェック機能がなかった

なぜこのような問題が起きたのか。

「報道では、多くの都道府県でも、厚生労働省のガイドラインや通知を拡大解釈していたと担当者が弁解しているようです。

真偽は不明ですが、国や地方公共団体の場合、民間企業と異なり、法定雇用率を満たしていなくても納付金を納める必要がないこともあって、対象となる障害者であるかどうかをチェックする機能が働いていなかったのではないかと思われます。

そもそも、雇用義務制度の対象となる障害者は、障害者雇用促進法37条2項により、(1)身体障害者、(2)知的障害者、(3)精神障害者(精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る)と定められています。

詳しい定義は省略しますが、障害者の手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳)を所持している者とほぼイコールといってよいかと思います。

民間企業の場合は、制度の対象となる障害者を一定数(法定雇用率)以上雇わないと、納付金を納めないといけません。

そのため、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に対して申告をする際に、障害者の手帳などを確認して、対象となる障害者であるかどうかを厳格にチェックすることが求められます。

また、障害者であることを明らかにすることのできる書類(手帳のコピーなど)を備え付け、保管しておく義務があります(障害者雇用促進法施行規則45条)。一定の場合は、これらの書類を申告書に添付して提出しなければなりません。

その一方で、国や地方公共団体の場合は、そのような第三者による厳格なチェックがないのです」

●「手帳中心主義」のルール自体が今のままでいいのか

同様のことが再び起きるのを防ぐにはどうすればいいのか。

「すぐに実施すべきこととしては、民間企業と同様に、確認書類(手帳のコピーなど)の備え付け・保管をするとともに、第三者機関のチェックを受ける仕組みを作ることだろうと思います。

もっとも、今回の不祥事をきっかけに、そもそも、雇用義務の対象となる障害者の範囲について、手帳を所持している者を原則とする『手帳中心主義』のルール自体が、果たして今のままでよいのかということも考える必要があると思います。

様々な事情(周囲からの偏見への心配など)から手帳を取得できるのに取得していない人や、手帳を取得できる程度には至っていないものの労働能力に相当の制限を受けている人、あるいは、手帳制度の対象となっていない難病患者なども、雇用義務制度の対象にするという議論も十分あり得ると思います。

もちろん、その場合は、法定雇用率の大幅な引き上げが必要になることはいうまでもありません。

さらに、今回の不祥事は、障害者雇用制度だけの問題ではありません。国や地方公共団体で働く全ての人にとっての働き方が問われているのだと思います」

●法定雇用率は「入口」にすぎない

障害者を受け入れやすくするよう、業務自体を見直すことも必要ではないか。

「『国家公務員は拘束時間が長い上、国会対応など突発的な仕事もあるから、障害者の採用は難しい』などという言い訳も報道されていますが、こういう働き方そのものを見直すべきなのに、そのことを避けてきたこと、それが今回の水増し問題の本質だと思います。

障害者雇用制度のあるべき姿は、障害者雇用がきっかけとなって、組織内の業務を見直し、必要な合理的配慮について組織内での建設的な対話が行われる風土を作り上げること、その結果、障害のある人にとっても、『そうでない人にとっても』1人1人の労働者の多様な能力が十分に発揮され、働きやすい職場を創造するということにあります。

要するに、『多様性を重視する組織』を作ることができるかどうかです。法定雇用率は『入口』(きっかけ)に過ぎません。

今回の水増し問題は、そのような『入口』の義務すら放棄するもので論外ですが、本質的には、目の前の数字の帳尻を合わせることにとらわれて『多様性を重視する組織作り』そのものを怠ってきたということにほかならないと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

浦崎 寛泰(うらざき・ひろやす)弁護士
1981年生。2005年弁護士登録。長崎県の離島(法テラス壱岐)で活動した経験や、法テラス千葉で障害のある方の刑事弁護を数多く担当した経験から、弁護士とソーシャルワーカー(福祉の専門職)が、分野や地域を越えて、普遍的に協働することができる仕組みが必要だと考え、社会福祉士の資格を取得。特に、障害のある方の成年後見業務、性風俗で働くセックスワーカーの法的支援などに力を入れている。2018年4月弁護士法人ソーシャルワーカーズ設立(代表弁護士)。
事務所URL:https://swrs.jp/
バナーの画像、書かれている内容は「あなたの体験を記事にしませんか?体験談募集」