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「接待費は1人5000円まででお願いします!」経理がやたらとこだわる裏事情
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「接待費は1人5000円まででお願いします!」経理がやたらとこだわる裏事情

慌ただしい経費精算の締め日。やっとすべての書類を出し終わったと思ったら、経理部から書類が返ってきてしまった。付箋には「この会議の参加者名を全員、記入してください」。うんざりしながらスケジュールや記録を振り返り、参加者の名前を一人一人記入していたら、時間がかかって残業する羽目にーー。こんな経験がある方は多いのではないだろうか。

また、経理部に「接待費は1人5000円まででお願いします」と言われるケースもよくあるようだ。なぜ経理部は参加者の把握や、5000円という金額にこだわるのか。その背景にある事情について、新井佑介税理士に聞いた。

●何のために人数を確認するの?

「実務上、経費精算の多くは法人税法の規定に沿って運用されています。そのため、経理部の主張を理解するためには法人税法について知ることが必要です。

今回は資本金1億円以上の大企業における経費精算業務を例に、法人税法と経理部の主張の関係について説明していきます。

まず法人税法上、交際費等は全額を『損金』(経費と考えてもいいでしょう)にはできません。損金にできなければ、会社が支払う法人税は増えてしまいますね。

反対に、交際費等ではない支出は損金処理が可能になるため、できる限り経費を交際費等から除外することで節税しようと企業は考えます。

規定によれば、交際費等のうち1人あたり5000円以下の接待飲食費(飲食費という点は注意が必要です)は交際費等から除外できます。除外するためには、『参加者の名前や人数』を記載して保存することが法人税法で求められているため、経理部は執拗に参加者や人数を確認しているのです」

●「1人3000円以下の会議費にすればOK」はただの慣習

会議費として処理するため、1人あたり3000円というルールをもうける企業もあるようだ。中には1人あたり3000円になるように人数を水増しすることすらあるという。5000円未満であれば除外できるのに、なぜ3000円以下にするよう指示をしているのだろうか。

「慣習的に3000円以下の飲食であれば、一律的に会議費として処理している会社もあるようですね。しかしながら会議費について、法人税法で1件当たりの金額が明示されているわけではなく、会議費には金額のしばりがありません。根拠のない指示といえるでしょう。

上司が『接待費ではなく会議費にしろ。人数水増しで』と部署の方針で部下に指示している場合は、そもそも、事実から乖離した虚偽精算を行う時点でアウトです」

●「調査官は食べログなどの予算を参考にする」

虚偽精算を行っている場合は、どんなリスクがあるのだろうか。

「人数水増しで精算された領収書は、会社に対する税務調査の際に争点となる場合があります。調査官は食べログなどの予算を参考にすることで、だいたいの客単価を把握することができます。処理された領収書の客単価が大幅に低い場合には、人数を水増しした可能性は当然ながら指摘されるでしょう。

もし故意に人数を水増ししていた場合、『過少申告加算税』が課せられたり、悪質な場合には『重加算税』が課せられる可能性もあります。

さらに、このような指示が日常的に行われていると推測される場合、他の領収書についても同様の処理が行われている可能性があるため、調査範囲が当初計画より拡大することも十分考えられます」

会社の節税のために一つひとつの会議や接待の参加人数と名前を調べ、今度は提出された領収書の処理に虚偽精算があれば、税務調査で調査官からにらまれる。経理部の経費精算時の確認には、思ったよりも多くの苦労が詰まっていそうだ。

【取材協力税理士】

新井 佑介(あらい・ゆうすけ)公認会計士・税理士

AAG arai accounting group 代表。新井公認会計士事務所所長。慶応義塾大学経済学部卒業後、BIG4系ファームを経て現職。金融調整から新設法人支援、法定監査まで幅広く全力でクライアントをサポート。趣味はサーフィンとスノーボード、そして登山。好きな言葉は「変わり続ける勇気」

事務所名   : AAG Arai Accounting Group / 経営革新等支援機関 新井会計事務所 

事務所URL: http://shozo-arai.tkcnf.com/pc/

(弁護士ドットコムニュース)

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