桜の季節、今年も多くの若者が期待を胸に社会人に仲間入りしました。
「電通」の女性新入社員の過労自死の問題を契機として、過重労働を改善すべく政府の「働き方改革」の議論が進む一方、日本社会にはいわゆる「ブラック企業」が存在し、苦しんでいる人がたくさんいます。
新社会人となった若者が入った会社がブラック企業だったとしたら、どう対処すべきか。社会人ならば知っておきたい働き方のノウハウをまとめました。
●ブラック企業とは
そもそも「ブラック企業」とはなんでしょうか。
明確な定義が存在する言葉ではありませんが、いわゆる「ブラック企業」には、(1)労働基準法等の法律に違反している企業と、(2)明確な法律違反はないものの、会社の利益が最優先で、従業員の人生設計や健康への配慮が欠如している企業があります。
(1)の典型例は、労働契約の締結前に労働条件を書面で提示して説明しない、許容範囲を超えた長時間労働やサービス残業を強制する、約束の賃金を支払わない、または約束の賃金が法律の定める最低基準を下回っている、休みをとらせてもらえない、退職させてもらえないというようなケースです。
(2)の典型例は、最低賃金ギリギリの賃金で雇い、昇給もない、月給の総額は他の会社と比較して低くないが、一部を残業代として支払うことで毎月の残業代の支払い節約する(なお、この制度の有効性は厳しく判断され、そもそも無効である場合も多くあります)というようなケースです。
共通する要素として、残業や休日出勤は当然というマインド、パワハラ、従業員の心身の健康に対する配慮の低さ、将来設計が立たない低賃金などが挙げられます。
結果、労働力を安価に搾取されたのちに従業員が肉体的・精神的に不調を来してしまうことが多く起きています。
●不調を感じたら
休日出勤やサービス残業が重なり、疲労がたまり心身の不調を感じたときは、会社に連絡して休みをとりましょう。休むことの連絡は早く行うに越したことはありませんが、当日の体調不良であってももちろん休むことができます。
連絡方法に法律上の決まりはないので、基本的に、会社のルールに従うことになります。一般的には、前日までの連絡であればメールでもよいでしょうが、当日休む場合には、始業時間前に確実に伝えるために、電話もした方が適切と思われます。ライン等SNSでの連絡は、業務でライン等SNSを使っている場合(飲食業や運送業でたまに見受けられます)以外では、避けた方が良いでしょう。
労働基準法上、有給休暇(有休)は6か月以上の勤務と8割以上の出勤に対して会社が付与するものですので、多くの会社の就業規則においても入社から半年間は有休が付与されないこととなっています。しかし、有休が付与されていないとしても、また「有休はない」と言われていても会社を休むことは可能です。心身の不調があるときは休みをとらせてもらいましょう(有休が付与されていない場合は「欠勤」として扱われ、休んだ日数分の給与が減額されることが通常です)。
(参考記事)「休日」「残業」入社前に聞いた「労働条件」がウソだらけ…新入社員の戦い方
https://www.bengo4.com/c_5/c_1625/n_4603/
●労働条件の改善を上司に相談する
状況の改善のためにやれることとしては、直属の上司に相談することが考えられます。上司の理解を得ることができれば、業務負担を軽減してくれる、もしくは労働環境の改善を上に掛け合ってくれることもあるかもしれません。
しかし、直属の上司自身がパワハラをしていることも、また、上司が解決できる問題ではないこともあります。
そういう場合は、社内の内部通報窓口があれば、そこに相談することも考えられます。内部通報窓口への相談は、電話やメール、手紙等で行うことができるのが一般的です。自分の名前を明らかにせず、匿名で相談することもできますが、名前を明らかにしなければ有効な対処は得られにくいといえるでしょう。
名前を明らかにしたとしても、通報の内容により相談者に不利益扱いをすることは公益通報者保護法により禁じられています。しかし、建前はそうでも、内部通報窓口へ通報したことにより、望まない部署への異動を命じられたり、退職を迫られるなどの事態が生じていることがわかっています。社内への相談に不安が残るようであれば、社外への相談も検討しましょう。
●社外への相談
社内の労働組合に相談することも状況を改善するための方法の一つです。しかし、労働組合がないことも多く、また「御用労組」といって会社サイドとの対立を避ける労働組合もあります。その場合は、業種別等の社外の合同労組に加入して、会社と交渉してもらうというのも一つの手でしょう。
また、労働基準法等の違反がある場合は、労働基準監督署に申告することもできます。
(参考記事)退職せずに「長時間労働」「パワハラ」をやめさせたい…環境改善のサバイバル術
https://www.bengo4.com/c_5/n_5321/
●退職を考えたら
あまりに心身の具合が悪いような場合や、企業の労働環境の違法性が強く改善の見込みがみられないような場合は、退職したいと考えることもあるでしょう。
退職するときは、退職(労働契約の終了)日の2週間前までに会社に告げることが必要であると民法が定めています。
この点、就業規則や労働契約書で、1か月前までに退職することを告げるように定められていることも多く見受けられます。「1か月前」であれば引継ぎの必要性などの理由から有効と考えられるので、原則、就業規則にのっとった退職をする方が良いでしょう。なお、就業規則や労働契約書で、2か月前や3か月前の予告を必要とすると定められているケースもありますが、退職の自由を侵害するものとして無効となる可能性が高いといえます。
また、退職する際には、たまった有休を消化することができます。会社は退職直前の有休申請に対しては、基本的に、日程の変更を指示できないと考えられています。
(参考記事)「入社4時間」で女性新入社員がスピード退職、職場騒然...法的にアリなの?
https://www.bengo4.com/c_5/c_1099/n_5286/
なお、違法な長時間労働やパワハラが行われていたケースでは、退職後(在職中も)、会社に対して、何らかの法的請求ができることがあります。具体的には、残業代が払われていなければ未払い残業代の請求、長時間労働やパワハラにより心身の体調を崩した場合には損害賠償請求ができる場合があります。その場合には、長時間労働やパワハラの証拠の有無が勝負を決します。ブラック企業に入社してしまったら、在職中に、タイムカードのコピーやパワハラ発言の録音をとっておくと、退職後に役立つことがあるかもしれません。
ブラック企業で働いている人は、「辞めるわけにはいかない」という気持ちの一方、「でも、身体を壊してしまいそうだ」と、迷いを感じながら働き続けていることが多いようです。しかし、労働者には、職業選択の自由があり、退職の自由があります。
その企業に在職しながら、転職活動をするのも、業務に支障がない範囲であれば自由です。また、心身の健康や生命の危機を感じたら、自分を守るために、外部に相談したり、とにかく会社を休んだり、退職をするということも選択肢に入れておくことが必要だと思います。
【監修】竹花 元(たけはな・はじめ)弁護士
2009年の弁護士登録と同時にロア・ユナイテッド法律事務所入所。2016年2月に同事務所から独立し、法律事務所アルシエンのパートナー就任。労働法関連の事案を企業側・労働者側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp