技術職として長年働いてきた男性が、事務職への配置転換を命じられたことを不服として起こした訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷(草野耕一裁判長)は4月26日、職種や業務内容の限定について労使合意がある場合、労働者の同意なく配転命令をすることはできないとする初判断を下した。
原告側代理人の塩見卓也弁護士は判決後の記者会見で、「労働法学の学説としては確立していたことを最高裁が確認した形で意義が大きい」と話した。
訴訟自体は、使用者側に不法行為があったかなどを審理するため大阪高裁に差し戻された。
●38年前の「東亜ペイント事件」との関係
訴えていたのは、滋賀県社会福祉協議会に勤めていた中村聡志さん。配転後、精神疾患を発症したといい、休職期間満了で退職扱いとなった。現在、退職無効を求める別の訴訟も起こしている。
配転をめぐる判例としては、「東亜ペイント事件」(最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決)がある。
この事件は会社の配転命令を有効としたものだが、「労働協約及び就業規則には、〔……〕従業員に転勤を命ずることができる旨の定め」があり、「労働契約が成立した際にも勤務地を限定する旨の合意はなされなかった」ことなどが理由となっていた。
中村さん側はこの点について、逆に、職種や勤務地を限定する合意があれば、使用者にはその合意に反した配転命令をおこなう権限がないことになる、などと主張していた。
今回の最高裁判決は、労働者と使用者との間に職種や業務内容を限定する合意がある場合には、使用者が労働者の同意なしに合意に反した配置転換を命じる権限を持たないと判示した。
●期待された「もっと踏み込んだ」判決
一方、塩見弁護士によると、職種などの限定がない場合、労働者の同意がない配転命令でも、多くの場合で使用者側の配転命令権が肯定されてきたという。
その理由の1つとして、前述の「東亜ペイント事件」は、就業規則などの規定を重要としているが、実際には多くの企業で、「業務上の必要性に応じて配転命令ができる」旨が定められている。
また、同判例は、使用者側による権利の濫用は許されないとしつつ、その基準について、「余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、〔……〕業務上の必要性の存在を肯定すべきである」と判示しており、ハードルが低い。
塩見弁護士は「東亜ペイント事件は1986年。当時とは時代背景が違う。(欲を言えば)もっと踏み込んだ判決を期待していた」と残念がった。
それでも、中村さんの職種限定の合意は、書類など明示的な証拠で裏付けられたものではなかったことなどから、「専門職で長くやってきた人が、本人の意思に反する形で違う仕事を命じられることの歯止めになる大きな判決」と話した。