事務職の女性が入社から4時間で退職することになり、職場が騒然としたというツイッターの投稿が話題になった。
退職の理由は不明。このツイートに対しては、「なんの冗談。。」「日本最短記録なのはほぼ間違いない」といった反応が見られた。
在籍期間が4時間というのは確かに短すぎるかもしれない。そもそも法律的に、入社からわずか4時間で退職することは許されるのだろうか。寒竹里江弁護士に聞いた。
●入社からわずか4時間での退職、問題はない?
「労働者側が退職を希望する場合、原則的には退職を禁止する法令上の制限規定はありません。特に理由を示す必要もなく、労働者自らの意思に従って退職することができます。
もっとも、民法では、雇用契約は『雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する』(民法627条1項)とされています。そのため、退職の意思表示は、退職する日の2週間前には行うのが原則です。法令とは別に、就業規則などによって、退職届提出から退職に至るまで2週間以上の期間を定めている職場もあります」
今回のケースで、女性は入社したその日に4時間で退職した。そんなことが認められるのか。
「民法627条1項は、継続的な契約である雇用契約において、一方の解約意思表示だけでいきなり契約が終わる場合に、関係当事者に損害が生じることを防ぐ意味を含みます。特に損害が発生しなければ、必ずしも2週間の告知期間経過を待つ必要もなく、労働者が退職しても支障がない場合もあるでしょう。
また、就業規則などで2週間より長い期間の定めがある場合でも、使用者に特段の不利益や損害が生じない限り、労働者は、民法の定める以上の不利益な拘束を受け入れなくてもいいと解釈されます」
ということは、会社に損害が生じなければ、入社したその日にわずか4時間で退職しても問題ないのだろうか。
「そうですね。今回のように、入社からわずか4時間で退職する場合であれば、この労働者が、4時間の間に引継ぎが必要となるような重要な仕事をしているとは思えません。退職しても使用者に特段の不利益は生じないでしょうから、2週間の解約告知期間を待つまでもなく、退職できると考えられます。
また、仮に使用者側に不利益や損害が生ずる場合であっても、例えば、就労条件が募集要項や入社前の説明と異なるなどの雇用契約違反が使用者側にある場合には、この労働者は、即座に退職することができるでしょう」
入社から4時間で退職したことについて、会社から損害賠償を請求される可能性はあるのだろうか。
「使用者側に何も雇用契約違反がない場合で、この労働者の退職によって使用者側が不利益や損害を被るのであれば、損害賠償請求が考えられないわけではありません。
例えば、入社4時間の間に職場の重要書類を破棄したり、重要書類を持ったまま退職するなど、特にこの労働者の故意・過失により使用者側に損害が生じた場合は、損害賠償の支払義務を負う可能性があります。
しかし、例えば、『すぐに辞められると新しい募集や雇用にコストや労力がかかる』といった程度の損害であれば、損害賠償の支払い義務は負わないでしょう」
●4時間しか在籍していなくても「職歴」になる?
入社からわずか4時間しか働いていない会社についても、「職歴」として、転職活動をする際の履歴書に記入する必要はあるのだろうか。
「厳密に言えば、入社からわずか4時間の就労でも職歴には違いないでしょう。ただ、例えば、日雇い仕事や短期間のアルバイト勤務を全て履歴書に記載する必要はありませんよね。
それと同様に、4時間の就労は履歴評価上特に重要な賞罰事実とも言えないでしょうから、4時間しか就労しなかったことについて履歴書に書かなかったとしても、虚偽記載などで民事上・刑事上の責任を追及されるおそれはないと考えられます」