東京・歌舞伎町の通称・トー横に集まる若者らが子どもの立場から情報を発信しようと「トー横新聞」発行の準備を進めている。
企画した大学生は「トー横の暗いところばかりがクローズアップされるが、僕らにも願いがあることを発信していきたい」と話す。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●大人目線の支援に不信感も
トー横では若者のオーバードーズや性被害が問題になっており、警視庁が補導したり東京都が相談窓口を開設したりするなどの対策に乗り出している。
一方、そうした「大人目線」の関わりに対して、トー横に居場所を見つけた子どもたちの中には不信感を抱く子もいるという。
そんな中、当事者の立場からトー横に関する情報を発信しようとトー横キッズだった若者らが企画したのが「トー横新聞」だ。
●青春コンプレックスを抱えている
「青春コンプレックスを抱えてトー横に来る子が多い。その未練を解消すれば良い方向に向かっていくような気がする」
4月15日夜、トー横新聞の発行に必要な寄付を呼びかけるフェイスブックのライブ配信で、企画した関西学院大学の学生、種村豊さん(20)はそう語った。
トー横キッズだった時の種村豊さん(種村さん提供)
種村さんが言う「青春コンプレックス」は、学校の友だちと遊んだり、男女交際したりするなど充実した学校生活を送れなかったことに引け目を感じている状態を指す。
いじめられたり親との関係がこじれたりして、学校でも家庭でものびのび過ごせる場所がなくなり、ネットで知ったトー横にやってくる子が珍しくないという。
●「トー横では誰にも拒否されなかった」
種村さん自身も不登校の経験があり、友だちの作り方が分からなかった。あるユーチューバーが動画でトー横の話をしていたことで関心を持ち、2022年3月に初めてトー横を訪れた。
「トー横は自分が住んでいた地域と文化や治安が全く違っていて、外国みたいだった。居心地がすごくいいわけじゃないけど、誰にも拒否されなかったから行き続けた」
当時をそう振り返る種村さんは、トー横をめぐる問題を人気アニメ「ドラえもん」に例えて次のように説明する。
「キッズたちにとって、学校や家はドラえもんが不在の『ドラえもん』の世界なんです。ドラえもんがいないと、のび太はどんな人と付き合うかを選択できず、居心地のいい環境を自分で作れません。学校ではジャイアンが幅を利かせているから、ジャイアンがいない環境があれば、そっちに行きたくなるはずです。子どもたちはジャイアンがいないからトー横に来ているんじゃないでしょうか。問題の根本は学校や家庭にいるジャイアンだと思います」
要は、トー横キッズにとってトー横はベストではないかもしれないが、学校や家よりかは「よりマシな」環境であるということのようだ。
●4月末までクラファンに挑戦中
自身の経験からそう感じているという種村さんは、トー横新聞を発行するにあたり、学校行事に代わるようなイベントを企画するなどして安心して楽しめる機会を作りたいと考えている。
今年4月には都議会を訪れ、議員たちに子どもがトー横にひかれる理由などを直接伝えた。その時のやりとりはトー横新聞の創刊号に掲載する予定という。
新聞にはトー横キッズの将来の夢やインタビュー記事なども載せ、紙媒体とネット上の両方で発信していくといい、自治体や教育委員会など広く配布する方針だ。
種村さんらはトー横新聞を発行するための費用をネット上で募っている(クラウドファンディングのサイトから)
現在、新聞発行に必要な費用をまかなうため、ネット上で寄付を募るクラウドファンディングを実施しており、250万円を目標に4月30日まで続ける。
●支援者は「自分たちもできることがあると知ってほしい」
取り組みを支援している公益社団法人「日本駆け込み寺」代表理事の天野将典さんは、クラウドファンディングのサイト上で「世間からのトー横キッズに対する目と、実際の子どもたちとのズレをなくしていきたい。このプロジェクトを通して『自分たちでも行動すれば出来ることがたくさんある』という気持ちを持ってもらいたい」と応援のコメントを寄せている。