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不正の内部告発者はどこまで保護される? 「公益通報者保護法」を徹底解説
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不正の内部告発者はどこまで保護される? 「公益通報者保護法」を徹底解説

勤務先で発見した不正を正すため、内部告発を検討する人もいるかもしれない。公益性のある通報をした人は、公益通報者保護法により、保護されることになるが、保護されるかどうかはどう判断されるのだろうか。公益通報者保護法で保護される公益通報とは、どのような条件を満たすものなのだろうか。山本雄大弁護士に聞いた。

●「公益通報保護法」とは?

公益通報者保護法とは、内部告発をした人が懲戒処分など不利益を被らないように保護する法律です。

まず、いわゆる内部告発については、公益通報者保護法が施行される以前から、解雇権濫用の法理(労働契約法16条)等の一般法理(法律の原則)による保護が図られています。公益通報者保護法施行後も、同法に定める公益通報者の保護要件を満たさない内部告発については、一般法理による保護が図られます。

公益通報者保護法は、(1)労働者が、(2)不正の目的でなく、(3)同法の定める通報対象事実を、(4)同法が定める通報先ごとの保護要件を満たして通報した場合に、(5)解雇の無効、不利益取扱いの禁止、労働者派遣契約の解除の無効という保護を定めています。

内部告発といっても、通報先としては、社内窓口、監督官庁、マスコミなど様々にあるでしょう。公益通報者保護法で定める(4)同法の定める通報先とは、次の3つに分類されます。

ア)労務提供先等

イ)処分勧告等の権限を有する行政機関

ウ)その他の外部(マスコミ等)

それぞれによって、保護要件も異なります。

社内通報は、「ア)労務提供先等」に対する通報に該当し、通報対象事実が生じている、あるいはまさに生じようとしていると考えたことが保護要件となります。

監督官庁への通報は、「イ)処分勧告等」の権限を有する行政機関への通報に該当し、通報対象事実が生じている、あるいはまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があること(真実相当性)が保護要件となります。

行政機関以外の外部通報は、「ウ)その他の外部への通報」に該当します。

●3つの「保護要件」

「ウ)その他外部への通報」では、次のⅰからⅲの3つを満たすことが保護要件となります。

ⅰ)その通報先が、その者に通報することにより通報対象事実の発生またはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められること

ⅱ)通報対象事実が生じている、あるいはまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があること(真実相当性)

ⅲ)行政機関に対する通報をすれば解雇その他の不利益取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある場合など法が個別に定める5つの要件のいずれかに該当すること

なお、ⅰの要件を満たす通報先には、通報対象事実により被害を受け、あるいは受けるおそれがある者が含まれます。しかし、通報対象事実が生じている労務提供先の競争上の地位にある者や、正当な利益を害するおそれのある者は除外されます。

各通報先による保護要件は以上のとおりですが、通報の順番は定められていません。

ただし、書面により、労務提供先に通報をしても20日以内に調査を行う旨の回答がない場合には、上記ⅲの要件の1つを満たすことになり、その他の外部への通報が保護されやすくなる仕組みであり、保護要件の内容からは、いわゆる社内通報を促進させる規定となっています。

●保護されない通報とは?

公益通報者保護法で保護される通報は、上記の(1)から(4)の要件を満たす通報です。

労働者でないものからの通報、嫌がらせ目的の通報、公職選挙法違反等の法で通報対象事実として列挙されていない違法行為の通報、真実相当性のないマスコミへの通報等は保護されません。また、公益通報者保護法が定める保護の内容は上記(5)(解雇の無効、不利益取扱いの禁止、労働者派遣契約の解除の無効)のみです。

通報者に対し、事業者等から名誉棄損等で損害賠償請求をされても、公益通報者保護法による直接の保護はありません。ただし、通報が公益通報者保護法の保護要件を満たしている場合は、一般法理によりこのような場面でも保護が図られるものと考えられています。

●企業内部の通報窓口

企業が内部に設けた通報窓口への通報については、それぞれの規程により保護が図られています。通報窓口を設置している多くの企業では、公益通報者保護法が定める通報対象事実に限定されず、不正行為等の通報を受け付けていると思われます。

パワハラ、セクハラ、処遇不満等の私的な内容については、これらの企業の規程に基づく通報あるいは相談となることが多いと思われます。

また、相談者個人の被害救済が目的であれば、そもそも通報として取り扱われないでしょう。

パワハラ、セクハラ、処遇不満等を社内窓口に通報する場合、犯罪行為や労働基準法等に違反する場合は、公益通報者保護法による保護の対象となることもありますが、あくまでも保護の内容は上記(5)に限られています。

●匿名では通報できないのか?

例えば、通報あるいは相談したことを上司や同僚に知られたくない場合もあるでしょう。しかし、通報者の秘密の保護については同法に定めはなく、企業の通報や相談の運用の問題となります。

この点、2016年12月に消費者庁から公表された新しい民間事業者向けのガイドラインでは、通報にかかる秘密保持の徹底を図ることが重要であるとされ、そのために講じるべき措置も具体的に記載されています。したがって、企業の内部規程で保護されるケースもあると思われ、規程の内容や実際の運用がどのようになっているかの確認が必要です。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山本 雄大
山本 雄大(やまもと たけひろ)弁護士 藤巻・山本法律事務所
1995年弁護士登録(大阪弁護士会)、欠陥商品被害救済を中心に消費者問題に取組む。公益通報者保護についても法制定時から取組み、内閣府消費者委員会に設置された公益通報者保護専門調査会では委員を務めた。

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