ストーカー規制法違反の罪に問われた60代男性の初公判が9月1日、大阪地裁で開かれ、検察側が拘禁刑6カ月を求刑し、結審した。
被害女性は、被告人が利用していた介護事業所の関係者だった。
「やさしい言葉をかけてくれ、心惹かれた」
被告人は捜査段階で、女性への思いをこう語っていたという。やがて「付き合っている気になった」といい、法廷でも「交際させていただいていた」と主張した。
一方、女性側の認識は異なっていた。被告人から「結婚したい」と言われ、望んでもいない物や金銭を渡され、受け取らないと怒られることもあったという。
警察庁によると、2025年のストーカー事案をめぐる禁止命令や検挙件数は過去最多を更新した。ストーカー事案のうち、60歳以上が占める割合も1割を超えている。
支援する側とされる側。その関係で生まれた好意が一方的に膨らみ、拒絶された後も止まらなくなる──。今回の事件は、高齢者によるストーカー事案について考えさせられる裁判だった。(裁判ライター・普通)
●禁止命令後もSNSに繰り返しメッセージ
身柄を拘束された被告人は60代後半。白ひげをたくわえ、髪もほとんど白かったが、ところどころ独特な色に染めるなど、身なりに気を遣っているように見えた。法廷では質問に対して、よどみなく話す姿が印象的だった。
起訴状によると、被告人は警察からストーカー禁止法に基づく禁止命令を受けていたにもかかわらず、恋愛感情や好意、それが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で、被害女性のSNSにダイレクトメッセージを繰り返し送ったとされる。
具体的なメッセージの内容は法廷では明らかにされなかったが、検察側は、義務のないことを強要するものや、名誉を害するもの、性的自由を侵害するものが含まれていたと指摘した。
被告人は起訴内容を認めた。
●「やさしい言葉をかけてくれて、心惹かれるように」
検察官の冒頭陳述などによると、被告人は高校卒業後、地方公務員として定年まで勤務した。定年を迎えるころには、妻を介護しながら働いていたという。その後、双極性障害(診断当時は躁うつ病)と診断された。
事件の約2年前から、被害女性が経営する訪問介護事業所のサービスを受けるようになった。
被告人は捜査段階で「やさしい言葉をかけてくれて、心惹かれるようになって、付き合ってる気になった」と供述していたという。
一方、被害女性によると、被告人から「結婚したい」などと言われ、望んでいないにもかかわらず、物や金銭を渡されるようになった。それを受け取らないと怒ったり、業務を妨害するような行為に及んだりすることもあったという。
今回の事件より前にも、被告人は同じ女性を脅迫したとして、罰金20万円の略式命令を受けていた。
それでもメッセージは途絶えなかった。女性は、自分だけでなく、家族や従業員にも危害が及ぶのではないかと不安を感じていたという。
これに対して、被告人は捜査機関で「私の援助なしに事業が回っているのを見て、新しいスポンサーを見つけたのかと思い、寂しい思い、怒りの感情を抱いた」などと供述していた。
女性との関係をどう捉えていたのか。その認識は、法廷でも繰り返し語られた。
●書面はないが「200万円を渡した」と主張
弁護人から事件に至ったきっかけを聞かれると、被告人は流暢に話し始めた。
「実はですね、検察官の主張とは異なるんですが、なんとなくインスタグラムを見ていたんです。すると被害者が高価なウイスキーを飲んでいる写真を投稿していて。200万円も融資している私には返さないのに…」
話が長くなりそうになるたび、弁護人が制止する。それでも被告人は、女性との間に金銭をめぐる問題があったという自らの主張を続けた。
被告人によると、女性が経営する介護事業所から、外出などをサポートする移動支援や自立支援を受けていた。その支援を受ける中で、女性との食事代として1回1〜3万円ほどを月に複数回支払うなどして、交流を深めていったという。
さらに、事業所の備品や女性の子どもの授業料、生活費、詐欺被害に遭った際の支援、結婚前の通院費などとして、計200万円を渡したと主張した。
ただし、貸し借りを示す書面などは残っていないという。
●「結婚どうするんや?」
被告人の説明では、それまで具体的な交際のエピソードが語られないまま、突然「結婚」という言葉が登場した。弁護人が尋ねた。
弁護人:結婚について、何か話はしていたのですか。
被告人:被害者に「ぼちぼちどう考えているんや」と聞くと「揺らがない」って言うんでね。
弁護人:「揺るがない」っていうのは?
被告人:婚約する気ですね。なので「婚約しようや」と。
弁護人:それで、どうなったんですか。
被告人:するとある日、何も言わずに姿を消しまして。その後、連絡がついて「結婚どうするんや? 結婚するなら(使ったお金は)チャラ、しないなら清算」と言ったら「私は1円も借りたりしていません」とガチャンと切られまして。
その後、被告人は女性の留守番電話に脅迫する内容のメッセージを残し、罰金刑を受けることになった。
●「交際していた」という認識は変わらず
被告人は、双極性障害や記憶障害と診断され、通院していたが、病院とのトラブルがあり、事件当時は通院していなかったという。
古い記憶は覚えている一方、数日前の記憶があいまいになることもあると説明した。裁判が終われば、再び医療機関を受診し、施設で生活するための調整も進めているという。
法廷では、今後、被害女性には二度と関わらない意向を示した。ただ、女性との関係については、
「付き合ってたからわかりますが、彼女は返す性格ではない」
「交際させていただいていた」
「金を貸していたのは事実」
と繰り返し、自らの認識は変えることはなかった。
仮に被告人が主張するような金銭トラブルがあったとして、正式に話し合いを申し入れたり、代理人を立てたりする方法があったのではないか。法廷でそう指摘されると、被告人も認めた。
しかし、今回の事件に至るまでには、同じ女性への脅迫による罰金刑があり、さらに警察から禁止命令も出されていた。それでも、女性への接触をやめることはできなかった。
検察官は論告で「再犯の可能性が大きい」と指摘した。
女性との関係をめぐる認識がどこまで変わったのか。法廷でのやり取りからは、見えなかった。