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宝塚劇団員の死亡「極めて過重な長時間労働があった」、遺族側が劇団と阪急に「謝罪と被害補償」申し入れ
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族代理人を務める川人博弁護士(2023年11月10日/弁護士ドットコムニュース)

宝塚劇団員の死亡「極めて過重な長時間労働があった」、遺族側が劇団と阪急に「謝罪と被害補償」申し入れ

今年9月に宝塚歌劇団の女性(当時25歳)が亡くなったのは、極めて長時間の過重な業務やハラスメントが原因だったとして、遺族は11月10日、劇団側に対して、安全配慮義務違反を認めて謝罪することや、被害補償することを求める考えを初めて示した。

遺族の代理人弁護士が同日、都内で記者会見を開いて明らかにした。

劇団は10月から外部の弁護士による調査チームを立ち上げている。弁護士ドットコムニュースの取材に「歌劇団として、大変重く受け止めており、ご遺族に対して、誠実に対応してまいりたいと思っております。今後、外部弁護士による調査結果を踏まえて真摯に対応してまいる所存です」とコメントした。

●まとめ役として業務に追われていた

遺族側の説明や用意した資料によると、今年9月30日に自死した女性は当時、入団7年目の宝塚歌劇団の劇団員で、「宙組」に所属していた。

「長の期」と呼ばれる下級生のまとめ役の学年として、新人公演(10月19日)や上級生も含めた本公演(9月29日)に向けて、極めて過重な業務を課されていたという。

遺族代理人の川人博弁護士によると、死亡前1カ月の労働時間は400時間を超え、時間外労働も250時間を超えていたほか、休日も公演準備などの業務にあたっていたという。

これらの時間は女性が遺族らに送っていたLINEのやりとりなどの情報から推定したという。

劇団では、入団5年目までは雇用契約で、6年目からは委託契約の形になるという。女性は6年目から劇団側と「出演契約書」を交わしていたとされ、その内容も一部公開された。

川人弁護士は「実際は使用従属関係にあったことは明白であり、6年目以降は実質的には労働契約だった」として、劇団側に安全配慮義務違反があったとしている。

同居していた遺族の証言では、帰宅後も業務に追われ、睡眠時間は3時間という日も続いたという。

当時、退団する生徒が出たことから、まとめ役は女性を含めて2人だけで「結果、本公演と新人公演を準備するのは人数的に無理な状況であったにもかかわらず、劇団は必要な改善措置をとらなかった。これが死亡原因と理解してもらいたい」(川人弁護士)

また、稽古中に、複数の上級生から暴言などのハラスメントを受けたとも主張している。

●両親と妹の言葉

遺族側は、劇団や運営会社の阪急電鉄に対して「事実を正しく把握した上で、劇団の安全配慮義務違反を認め、劇団と阪急が遺族に謝罪し、適切な被害補償をすること」をすでに申し入れている。

「日本を代表する芸術・芸能分野の劇団のひとつである宝塚歌劇団において、将来ある若い女性の命が奪われたことは極めて重大。

阪急電鉄は担当部門まかせでなく、全社をあげて本件に適切に対処しなければならない」

女性は本来であれば今夏に退団する予定だったそうだ。記者会見では、両親と妹ら遺族のコメントが代読された。

「心身共に疲れ果てた様子の娘に何度も『そんな所へ行かなくていい、もう辞めたらいい』と止めましたが、娘は『そんなことをしたら上級生に何を言われるか、何をされるかわかない(ママ)、そんなことをしたらもう怖くて劇団には一生いけない』と涙を流しながら必死に訴えてきました」

「私たちは、常軌を逸した長時間労働により、娘を極度の過労状態におきながら、これを見て見ぬふりをしてきた劇団が、その責任を認め謝罪すること、そして指導などという言葉では言い逃れ出来ないパワハラを行った上級生が、その責任を認め謝罪することを求めます」(遺族コメントの一部)

画像タイトル 生徒手帳。遺族側代理人の川人弁護士と井上耕史弁護士(右)

川人弁護士は会見で、女性が持っていた宝塚歌劇団の「生徒手帳」の1ページを開き、「上級生、下級生とは縦の絆、同期生とは横の絆。」という言葉を見せた。

「事件経過を見る限り、一般の会社以上にあるいは一般の組織以上に、ある意味では異常なまでに縦の関係がつくられ、上級生から下級生にパワハラというべき、さまざまな暴言発言が繰り返されていた。事態の背景に、劇団における縦の関係の過剰なまでの重視があったと、弁護士として指摘せざるをえない」

阪急電鉄は取材に「歌劇団の運営会社であるが、別組織である」と説明したうえで、「阪急電鉄としても大変重く受け止めております」とコメントした。

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